鉄道ファンひきつける「簡易委託駅」 長崎の小串郷駅と千綿駅 地元住民が切符販売、広がる交流 

2023/08/28 [11:30] 公開

切符を販売する西口さん=JR小串郷駅

 JRやグループ会社の職員ではなく、地域住民が切符を扱う「簡易委託駅」が大村線に二つある。駅舎を長崎県東彼川棚町が所有するJR小串郷駅(小串郷)と、東彼杵町が所有するJR千綿駅(平似田郷)。両駅とも券売機はない。切符を集める「きっぷ鉄」の鉄道ファンが訪れる両駅を訪ねた。
 「どちらまで行かれますか」。8月12日午前、小串郷駅の窓口で近くに住む80代女性が切符を購入した。待合室を抜ける風に「バス停は日よけがないけど、ここなら暑くなくて助かる」。女性は盆参りで2駅先の隣町へ。販売員の西口侑未乃さんがホームに出て見送った。
 駅は周辺自治会でつくる「小串郷駅管理委員会」が運営する。西口さんは研修を経て今月、独り立ちしたばかり。待合室では住民有志と夏休みの工作教室を開き、地域の交流の場としても機能する。「快適に過ごせる駅にという前任者の思いを引き継ぐ」と意気込む。
 扱うのは運賃が印刷されている乗車券(同駅から100キロの1850円まで)のほか、駅名などを刻印する往復券や定期券。ファンが買い求めに来る。過去には遠方から訪れ、隣駅までの定期券を購入した収集家もいたという。販売時間は原則、平日の午前7時から10時45分まで。
 千綿駅は小串郷駅から長崎方面に3駅先。20分程度の旅だ。車窓からは波静かな大村湾の景色が広がる。構内の生花店「ミドリブ」が管理しており、乗車券のみを扱う。土日を中心に観光列車「ふたつ星404(よんまるよん)7(なな)」も停車。760円分の乗車券と押し花をセットにした記念乗車券(1300円)は観光客に好評だ。

ゴム印と手書きで仕上げられた小串郷駅から千綿駅までの往復乗車券(上)。下の2枚は早岐駅で購入した同区間の往復乗車券

 同駅には6月から、駅を訪れた人に感想を書き込んでもらうノートを置いている。韓国や中国、台湾からの訪日客や、70年近く前に同駅から通学していた帰省客、夏休みの子どもらがびっしり書き込んでいる。間もなく3冊目になる。切符販売員の下野惠美子さん(35)はページをめくりながら「コロナ禍で減った人の往来が戻ってきたことを実感している。皆さんの駅の思い出を共有しているみたい」と筆跡から人柄まで思い浮かべる。販売時間は木-月曜の午前10時半から午後2時まで。

旅の思い出を記してもらう「つばめノート」=JR千綿駅

 佐賀県では駅前の商店が切符を扱うケースも。有田町のJR上有田駅では、創業100年近くになる原田酒店が扱う。駅の無人化に伴い販売を始めて40年以上。営業は午前7時から午後7時まで。多い日で20人ほどが切符を買い求める。店主の原田芳幸さん(77)は数年前に全ての券種、およそ2万円分を購入したファンがいたと振り返る。「私には1枚の切符だけど、好きな人は本当に好きなんだろうね」
 収集歴40年になる佐賀市の公務員、馬庭和広さん(48)はこの夏、小串郷駅を訪れた。簡易委託駅の切符について「ゴム印を押したり、手書きがあったり、人の手が加えられた手作り感がある。集めたものを見返すと、人情味あふれる駅や販売員さんの思い出が浮かぶ」と魅力を語る。
 JR九州によると、県内39駅のうち、直営駅4、グループ会社の職員がいる駅は7。簡易委託2駅を除く無人駅は26。