全県的な防犯網発足へ 民間で防犯ネット

 県内の犯罪増加に歯止めがかからない。刑法犯認知件数(犯罪発生件数)はここ十年で一・五倍に増加、警察の摘発は追いついていない。昨年、今年と長崎、佐世保両市で中学生、小学生による殺害事件が発生。高齢者を狙った「おれおれ詐欺」など、巧妙な手口の犯罪被害も拡大している。

 こうした状況を憂慮し、自発的に防犯システムをつくろうとする民間の動きが始まった。長崎新聞販売センターはあす二十二日、犯罪抑止のため警察に事件、事故の通報などで協力する「長崎新聞あんしんネットワーク」を発足。県警との覚書に基づき、全県的な企業単位の防犯組織ができるのは県内で初めてだ。

 安全な社会実現のため、民間の組織ができることは何か。現状と対策を探った。(報道部・久保景吾)



 「購読者の顔はあまり知らない。まだ住民は眠っている時間だから。でも、散歩する夫婦やお年寄りとすれ違うときは必ずあいさつをするし、顔見知りになることもある」

 午前四時。長崎市城栄町の松下史典さん(18)は、若草町の長崎新聞城栄販売センターに出勤。新聞を入れたかばんを肩から提げ、約二時間かけてエリア内の民家やアパートへ百部の新聞を配達する。「防犯…。特に今まで考えてこなかった」と話す松下さんだが、彼も犯罪抑止に一役買うことになる。

 長崎新聞販売センターは県内に百六十二カ所、約二千五百人の従業員(十八歳以上)がいる。県内全域をカバーする店舗網を生かし、情報提供面から犯罪抑止に協力するのが「長崎新聞あんしんネットワーク」だ。同センター集合組織「長崎会」の勝井一清会長と松尾健県警生活安全部長が二十二日、「安全・安心まちづくりに関する覚書」を交わし、発足する。

 同様の取り組みに、今年六月、島原署と牛乳販売店、新聞販売センターが連携して結成した「安全安心まちづくりネットワーク」などがあるが、覚書に基づき、県内全域を網羅する組織は初めて。


街がまだ眠っている時間帯に新聞を読者へ届ける配達員。ネットワークの一員として異常を県警に通報する=長崎市富士見町
 協力の内容は▽配達、集金などの業務中に、不審者や事件、事故を目撃した場合の通報▽けが人などを発見した場合の連絡、保護▽地元警察署との情報交換▽一人暮らしの高齢者などの安否確認と連絡▽「おれおれ詐欺」などから身を守る参加体験型の防犯講習会などの広報協力―など。ただし、センター従業員に特別な権限はなく、通報を受けた県警が事件処理や救急センターへの搬送など後の手続きを取る。

 県警生活安全企画課は「警備が手薄になる午前三時から六時の間、従業員が活発に働く販売センターの協力は心強い。不審車のナンバーをメモしてもらうなど情報量の増加が期待できるほか、独居老人の病気の早期発見などにもつながる」と期待する。

 こうした民間の取り組みの支援や防犯環境の整備などを目的とする「安全・安心まちづくり条例」(仮称)の制定に向け、県警と県は九月十五日、民間の代表者らに意見を聞くため「安全・安心まちづくり条例検討懇話会」(座長・福崎博孝弁護士、十人)を立ち上げた。来年一月上旬までに条例の骨子などをまとめ、二月定例県議会に提案する方針。

 懇話会に示した骨子案は、県民一体となった防犯活動と防犯環境整備の推進を基本理念に、▽事業者など民間団体が自主的に行う防犯活動を県が支援する▽防犯に配慮した道路、住宅、商業施設などの普及に努める▽学校と家庭、地域が連携して行う防犯教育を県が支援する―など。

 委員からは「県が教育を支援すると定める条例は斬新」「自主防犯活動を推進するよう指針を定めるべきだ」「犯罪被害者の支援も条例に盛り込んでほしい」などの意見が出された。

 現在、全国十六都道府県が同様の条例を制定している。生活安全企画課は「今まで防犯に対する法的整備がなかった。生きた条例を目指したい」と話す。