「心の安定こそ平和」と話す川崎さん=長崎市内

「心の安定こそ平和」と話す川崎さん=長崎市内

ピースサイト関連企画

被爆・戦後75年 ナガサキ・ユースの視点 若者と平和活動・5 【根源】「心の安定こそ」信念に 川崎有希さん(25)=4期生=

2020/07/22 掲載

「心の安定こそ平和」と話す川崎さん=長崎市内

「心の安定こそ平和」と話す川崎さん=長崎市内

【根源】「心の安定こそ」信念に 川崎有希さん(25)=4期生=

 ナガサキ・ユース代表団4期生の川崎有希(25)は、いくつかの“顔”を持っている。その一つは、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)の事務補佐員としての姿だ。
 もう一つの被爆地、広島で育ち、高校3年の時には第15代高校生平和大使として、核廃絶を求める署名をスイス・ジュネーブの国連欧州本部に届けた。「(広島で被爆した)曽祖父の思いをつなぎたかった」
 ユース代表団だった2016年には、在学していた長崎大教育学部での学びを生かし、小中学校などに出向いて平和講座をする「ピースキャラバン」の活動を始めるなどした。大学を卒業した今はRECNAで週に4日程度、勤務している。今後は長崎を訪れる修学旅行生らに被爆の実相を伝えるボランティアガイド「平和案内人」や、被爆証言を語り継ぐ「交流証言者」の活動を本格的に始める予定だ。
 こうした積極的な平和活動の一方で、RECNAの仕事が休みの日などには長崎市内の自立援助ホームで職員として働く。それが、もう一つの“顔”だ。自立援助ホームは児童福祉法に基づく社会福祉施設。虐待などさまざまな事情で家族と暮らせない未成年者らが、共同生活しながら自立を目指す。川崎はそんな彼らの食事や掃除、洗濯などの身の回りの世話をし、一人一人が社会で自立できるようサポートをしている。
 川崎は国内の社会問題に心を痛めてきた。「日本は今、戦争をしてないから、環境的には平和かもしれない。しかし、子どもの貧困や児童虐待が起こっているし、心を病んで自殺する人も多い。そんな社会は平和とはいえない」
 そう考える背景には自身の生い立ちがある。物心ついたころから、統合失調症を患う母親が妄想や幻聴に苦しむ姿を間近で見てきた。自らも中学時代に同級生からいじめに遭い、「消えたい」と本気で思った。「生きづらさ」を抱えながら生きてきた。
 川崎は「母や自分のような生きづらさを抱える人の助けになりたい」と、精神保健福祉士の資格取得を目指し、再び大学で学び直すための準備を進めている。一見、全く別の分野に見える福祉と平和。だが、どちらも根源は一緒だと思う。「多くの人の関わりの中で、つながれてきた大切な命。失われていい命なんてない」。「心の安定こそ平和」という信念で、前に向かって歩き続けている。
(文中敬称略)


 県や長崎市、長崎大でつくる核兵器廃絶長崎連絡協議会が県内の学生らを対象に募集し、国連本部で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議へ派遣するなどしている「ナガサキ・ユース代表団」。本年度が8期生になる。現役生や経験者への取材、長崎新聞社が実施したアンケート結果を通して、平和活動への若者の思い、課題を考える。

◎アンケート結果

 -今、最も関心がある社会問題は(新型コロナウイルス問題を除く)。
 ▽「年金問題。私たち世代がもらえるのか」(3期・30歳男性)
 ▽「差別や偏見によって多様性を排除し、分断しがちな社会の動き」(3、4期・25歳男性)
 ▽「アフガニスタンの紛争問題」(5期・22歳女性)
 ▽「不倫問題。結婚していても心が満たされないのは、既に核兵器を持っているのに、さらに強い兵器を持とうとする心理と似ている」(5期・27歳女性)
 ▽「東アジア、日本の安全保障上の問題」(6期・24歳男性)
 ▽「香港、ウイグル、チベットを中心とした中国の人権問題」(7期・31歳女性)