道徳の授業で佐世保空襲について取り上げる高山教諭=佐世保市、九州文化学園小中学校

道徳の授業で佐世保空襲について取り上げる高山教諭=佐世保市、九州文化学園小中学校

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被爆・戦後75年 記憶をつなぐ 佐世保空襲編・4 【語り継ぐ】 高まる学校教育の重要性

2020/07/03 掲載

道徳の授業で佐世保空襲について取り上げる高山教諭=佐世保市、九州文化学園小中学校

道徳の授業で佐世保空襲について取り上げる高山教諭=佐世保市、九州文化学園小中学校

【語り継ぐ】 高まる学校教育の重要性

 6月19日午後。佐世保市花園町の九州文化学園小中学校の中学1年の道徳の授業で、担任の高山幸子(47)が問い掛けた。「佐世保空襲の日時を言える人はいますか」。19人の生徒がタブレット端末の画面を押すと、電子黒板にグラフが現れた。
 「『言える』は3人。自信がない人は16人だね」
 学校近くの名切地区は佐世保空襲の際、一帯が焼失し、大きな被害を出した。地域の歴史を伝えるため、同校は昨年の開校以来、近くの「鎮魂慰霊平和祈願の塔」の清掃活動や佐世保空襲資料室(戸尾町)の見学などに取り組んでいる。
 戦後75年が経過し戦争体験者が減る中、戦争の記憶を次世代につなぐ場として学校教育の重要性は高まっている。市教委によると、市内の多くの学校は例年、6月29日前後に平和集会を開催。佐世保空襲を語り継ぐ会による講話やスライドを使った説明などが行われている。
 ただ、平和教育の内容は各学校に任されており、学校ごとに取り組みの深さにばらつきがあると指摘する声もある。語り継ぐ会の会員で市立吉井中教諭の山口勉(56)は「過去の過ちを繰り返さないためには、経緯や被害の実相を学ぶための共通の土台が必要だ」と訴える。
 全国の平和教育を研究する秋田大教授の外池智によると、児童・生徒が空襲被害を体系的に学ぶプログラムを持つ地域は少ない。さらに、佐世保市では、継承教育を難しくする特有の理由があるのではないか、と外池は推測する。「平和を強調しすぎれば『じゃあ、目の前の基地はどうなの』となりかねない」
 佐世保と同じく基地を抱える横須賀市は、小学3年と中学1年の児童生徒に配布する社会科の副読本に地元の空襲被害を記載。昨年度は明治時代の陸軍の砲台跡を題材にしたコラムを掲載し、砲台が作られた理由や外国との付き合い方を尋ねる質問を設けた。
 「平和の考え方は多様だが、地元の過去の事実を伝え、そこから平和について考える時間は重要だ」と担当者は意義を強調する。
 旧戸尾小にある空襲資料室には時々、若い教員が平和学習の準備のためにやって来る。空襲体験の継承に向け教員たちに課せられた「使命」は軽くない。「まずは自分の感覚を大事に育て、何を伝えればいいか考え、伝えてほしい」。古びた教室で、語り継ぐ会代表の早稲田矩子(77)は、祈るようにそう言った。
(文中敬称略)