71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 下

判決後の集会で厳しい表情を見せる本田氏(右)ら=長崎市桜町、県勤労福祉会館

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71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 下 内部被ばく

厳しい司法判断 「なぜ」

2016/02/28 掲載

71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 下

判決後の集会で厳しい表情を見せる本田氏(右)ら=長崎市桜町、県勤労福祉会館

内部被ばく

厳しい司法判断 「なぜ」

 旧北高戸石村(現長崎市、爆心地から約11キロ)で原爆に遭った矢野ユミ子さん(81)は、22日の被爆体験者2陣訴訟の長崎地裁判決で敗訴。被爆者として認められなかった。

 「原爆の後、灰が積もった畑で作られた野菜を食べ、井戸水を飲んだ。熱が出たり髪の毛が抜けたりして数年前に胃がんになった。なのに、なぜ被爆者ではないの」。原爆投下後に降り注いだ放射性降下物が野菜や水に混じり、体内に取り込んで「内部被ばく」の影響を受けたと矢野さんは思っている。

 訴訟は、爆心地から一定離れた場所での内部被ばくによる健康影響が認められるかどうかが焦点だった。原告側証人の本田孝也・県保険医協会長(59)は原告161人全員を対象に、原爆投下後1年間に浴びた線量を推計。外部被ばく線量は0・3~64・9ミリシーベルト、甲状腺の内部被ばく線量は5・6~1341ミリシーベルトと推計。「健康被害が生じる可能性があった」と訴えた。

 だが、地裁判決は内部被ばくについて線量測定や影響の判定は困難とし、本田氏の推計方法の一部に誤りがあると判断。原告について「内部被ばくが生じるような状況にあった」としながらも「具体的な程度(線量)は明らかでない」と結論づけ、外部被ばく線量だけを判断材料にした。このため原告161人のうち被爆者認定は外部被ばく線量が高い10人にとどまった。

 「期待していたが、内部被ばくに関して非常に厳しい司法判断が示された」。判決後の集会で本田氏は硬い表情を崩さなかった。

 本田氏が期待していたのには訳がある。被爆者の原爆症認定をめぐり「内部被ばくといった残留放射線の影響も十分に考慮すべき」とした昨年10月の東京地裁判決など、内部被ばくの影響を肯定する司法判断は定着しつつあるからだ。

 本田氏は「今回の長崎地裁判決は、内部被ばくを認めたふりをして認めていない。線量を全く評価しないのはおかしい」と語る。

 原告側は、敗訴した151人について控訴する方針。一方、原告が388人に上る1陣控訴審の福岡高裁判決の言い渡しは1カ月後に迫る。

 原告側の三宅敬英弁護士(41)は「地裁と高裁に提出した資料はほぼ同じで、原告全員の線量も同じ手法で出している。しかし裁判長が違う。内部被ばく線量を参考にした高裁判決を期待したい」と語る。