71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 上

一刻も早い被爆者健康手帳の交付や控訴断念などを訴える下川さん(右)ら=長崎市役所

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71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 上 二重基準

「控訴しないですよね」

2016/02/26 掲載

71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 上

一刻も早い被爆者健康手帳の交付や控訴断念などを訴える下川さん(右)ら=長崎市役所

二重基準

「控訴しないですよね」

 「もっとひどい被害を受けた人もいる。まず私たちが被爆者健康手帳をもらうことで、原告のみんなを勇気づけたい」-。23日午前、長崎市役所で被爆体験者訴訟2陣原告らは、三藤義文副市長に訴えた。

 長崎原爆に遭った場所が爆心地から12キロ以内の被爆地域外だったため「被爆者」と認められない被爆体験者が県、市に被爆者健康手帳の交付を求めた同訴訟。22日の2陣判決で長崎地裁は、年間積算被ばく線量25ミリシーベルト以上という新たな外部被ばく基準を据え、原告161人のうち10人を「被爆者」と初めて認めた。被爆地域外の認定は、すなわち現被爆地域の枠組みを否定し被爆地域拡大の必要性を是認する意味合いも帯びる。

 判決から一夜明け、市役所に出向いた原告からは、勝訴原告10人への手帳即時交付とともに「まさか控訴しないですよね」などの発言が相次いだ。市は昨年7月、救済の観点から「被爆地域の拡大是正」を国に要望する活動を14年ぶりに再開し、田上富久市長も同8月の平和祈念式典で「被爆地域拡大を強く要望します」と高らかに宣言した経緯がある。市が判決をとにかく不服として控訴すれば、被爆地域拡大を訴えながら地域拡大を補強する判断を否定することになり、ダブルスタンダード(二重基準)との批判を免れない。

 「まだ(控訴の)方向性を申し上げる状況ではない」と三藤副市長は厳しい表情。やりとりの後、市のある職員はこうつぶやいた。「(1陣の)高裁がまだ控えている」

 2012年の1陣長崎地裁判決は、原告の訴えを全面的に却下。続く同地裁での2陣訴訟では、原告側証人が新たに原告全員の推計被ばく線量を推計し今回の一部勝訴につながった。3月28日に控訴審判決を控える1陣も、高裁に全原告の推計線量を出しており、原告388人のうち25ミリシーベルト以上は37人とみられる。ただし地裁とは別の裁判長だ。

 2陣勝訴原告の今井ツタヱさん(84)、下川静子さん(82)姉妹は、弟で1陣原告の谷山勇さん(74)と一緒に爆心地から8・3キロの旧西彼矢上村で原爆に遭った。下川さんは「弟は同じ場所にいたのできっと認められる」と期待を込める。

 被爆体験者が被爆地域外での被ばくと被害をめぐり県、長崎市と争い、被爆71年目に下された地裁判決の波紋を追った。