出会いこそ生きる証 瀬戸内寂聴展 3

「源氏物語・瀬戸内寂聴訳」の装丁を飾った石踊達哉さんの屛風「真木柱」=長崎市、県美術館

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出会いこそ生きる証 瀬戸内寂聴展 3 石踊達哉の装丁原画
“平成の源氏”絢爛に

2015/07/31 掲載

出会いこそ生きる証 瀬戸内寂聴展 3

「源氏物語・瀬戸内寂聴訳」の装丁を飾った石踊達哉さんの屛風「真木柱」=長崎市、県美術館

石踊達哉の装丁原画
“平成の源氏”絢爛に

平安中期、紫式部が書いた長編小説「源氏物語」。主人公の光源氏をめぐる栄枯盛衰は、作家として円熟期を迎えた瀬戸内寂聴さんの心をとらえた。「古典文学に隠された仏教の影に気付いた。女性たちへの光の当て方を考え直す必要がある」
70歳を過ぎた寂聴さんは、谷崎潤一郎ら数々の作家が手掛けた名作古典の現代語訳に挑む。全10巻の「源氏物語・瀬戸内寂聴訳」は、1996年から2年かけて完成。光源氏が愛した女性の多くが出家した物語に、仏の道に生きる自身を重ねた解釈は話題を呼んだ。さらに評価を高めたのが、日本画家の石踊達哉さんによる全54帖(じょう)の豪華絢爛(けんらん)な装丁だった。
石踊さんは45年、鹿児島県出身。伝統的な花鳥風月を現代的に描き、金箔(きんぱく)を多用した装飾的な画風から「平成の琳派(りんぱ)」と呼ばれる。
赤、柿色、うぐいす色-。鮮やかな十二単(ひとえ)に包まれた姫が黒髪をなびかせる。「源氏物語」の31帖「真木柱(まきばしら)」を描いた六曲半双の屛風(びょうぶ)(縦1・5メートル、横3・3メートル)は、本展注目の一作。
頭を袖で覆う描写は、父親と別れる姫の悲しみを古典的な技法を踏襲して表現。一方、描く対象を屛風の右半分に集中させ、構図の斬新さを際立たせた。さらに、5ミリ四方の金箔をちりばめ、悲嘆に暮れる姫を「涙雪」で包んだ。
「平成の源氏でいい。自分自身を出すような新しい絵を描いてほしい」。石踊さんは寂聴さんからの要望をこう振り返る。本展では「真木柱」をはじめ、49帖「宿木(やどりぎ)」より「秋の響(ひびき)」など「寂聴版源氏」を彩る装丁原画の屛風10点を展示。一千年の時を超え、「平成の源氏ブーム」を巻き起こした二人の魅力が堪能できる。