つなぐ広島・長崎 被爆樹木をめぐる物語 6(完)

「平和を守る素晴らしい心を持っている日本を信じている」と話すニコルさん=東京都内

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つなぐ広島・長崎 被爆樹木をめぐる物語 6(完) インタビュー
作家 C・W・ニコルさん
市民の力で政治動かせる

2015/07/26 掲載

つなぐ広島・長崎 被爆樹木をめぐる物語 6(完)

「平和を守る素晴らしい心を持っている日本を信じている」と話すニコルさん=東京都内

インタビュー
作家 C・W・ニコルさん
市民の力で政治動かせる

広島原爆で傷ついたエノキの木を戦後、地元の小学生が世話した実話に基づく絵本「ひろしまのエノキ」。英訳に協力した作家で環境保護活動家のC・W・ニコルさん(75)に話を聞いた。

-英訳の経緯は。
絵本に登場する樹医と親交があり、話自体は知っていたが、「ながさき県民の森」で働く友人から2013年に依頼があり、喜んで協力した。
-絵本を読んだ感想は。
広島の恐ろしい出来事の後、傷つきながらも緑や街が復活する再生であったり未来への希望だったり、元気が湧くような素晴らしいストーリーだと感じた。
-被爆エノキ3世を国内外に広げていく取り組みについては。
木には強い生命力があるが、水や風、鳥、クマやタヌキ、人間など他者の力がなければ縄張りを広げることはできない。人間が関わると「思い出」「愛」といった要素が加わる。エノキの子孫を増やすことは「広島、長崎を忘れてはいけない」との思いを広げること。私が暮らす長野県の「アファンの森」にも植えたい。
-原爆投下から70年がたつ今も世界には核兵器が存在するが。
米国が原爆を落としたことは許せないと子どものころ思っていた。恐ろしい武器があるから平和が保たれるという(核抑止力の)議論も分かるが、それでいいのか。死ぬまで持ち続けるのかと言いたい。
-市民に何ができるか。
私が生まれた英国の南ウェールズは産業革命で自然が破壊されたが、市民の愛情と汗と知恵で森や川を取り戻した。自分や友人の子、孫のことを考えて行動したからだ。市民には政治を動かす力がある。核の問題も同じ。未来を信じたい。
-今の日本の政治をどう見るか。
日本は崖っぷちに立っている。安倍政権は海外の戦争に出掛ける準備を進めている。他国の後方支援であっても他国に武器を持って行くことは「戦う」ということだ。実父は第2次大戦で旧日本軍と戦って亡くなった。それでも私が日本を愛し、国籍を取得したのは素晴らしい自然や人間性に加え、言論や宗教の自由、何より戦後、戦争をせずに平和を守ってきたから。世界でもそう思っている人は大勢いる。日本や日本人を守る自衛隊を尊敬、応援しているが、安全保障の在り方について国民的な議論をすべきだ。

【略歴】英ウェールズ生まれ。17歳でカナダに渡り、同国水産調査局の北極生物研究所、淡水研究所などで調査研究、環境問題対策に当たる。1962年に空手の修行のため初来日。80年から長野県に住み、執筆活動とともに森の再生に取り組む。95年に日本国籍を取得した。