約束
 NPT再検討会議を超えて 上

NPT再検討会議の評価などが論議された平和宣言文起草委で発言する長崎原爆被災者協議会長の谷口稜曄さん(手前)=12日、長崎原爆資料館

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約束 NPT再検討会議を超えて 上 定まらぬ評価
体制維持は一つの成果

2010/06/22 掲載

約束
 NPT再検討会議を超えて 上

NPT再検討会議の評価などが論議された平和宣言文起草委で発言する長崎原爆被災者協議会長の谷口稜曄さん(手前)=12日、長崎原爆資料館

定まらぬ評価
体制維持は一つの成果

約190カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、最終文書を全会一致で採択し5月末に閉幕した。イスラエル、インド、パキスタンなど実質的に核を保有している未加盟国は複数あるものの、加盟国の多さなどから最終文書は核と核兵器について現時点の人類が結んだ「約束」と言える。この一致点を足場に「核兵器なき世界」への道筋を模索しようとする被爆地・長崎を見詰めた。

核兵器廃絶とは、世界中から核兵器をなくすこと。「そんなことできるわけないじゃないの」。5月、米ニューヨークの飲食店で知り合った在米の邦人女性は一笑に付した。これが世界の市民の一般的な感覚かもしれない。しかし、歴史も文化も言語も違う国々が再検討会議で1カ月弱にわたり、核と核兵器をどうするのかを議論し、一定の到達点を見いだした。「すべての国は核兵器なき世界を達成するという目標と完全に一致する政策を追求することを約束」「核保有国は核軍縮につながる具体的進展の加速を約束」-。

外務省は、再検討会議の最終文書について「前回(決裂した2005年)と同様の結果は許されないとの強い危機感が共有される中、合意が図られた。危機に直面するNPT体制を救った意義は大きい」と評価した。

被爆地はどうか。開会中の定例長崎市議会で、複数の議員が再検討会議の検証について質問。田上富久市長は「核軍縮の期限が削除され、評価は相半ばしているが、国際社会がNPT体制を維持していくのだという決意を世界に示したことは一つの成果」と答弁した。

8月9日に世界へ発信する被爆地のメッセージを検討する今月12日の平和宣言文起草委員会。文面は、再検討会議の結果を踏まえることが決まっている。示された事務局原案はNPT体制が維持され、希望につながったことを評価する内容。だが異論が相次いだ。

ある委員は「核軍縮の行程表などが核保有国に退けられ、成功だったとは言えない。宣言文は1年に一度、世界のメディアが注目する被爆地からのメッセージ。再検討会議のこの程度の結果で被爆地が了解したとすれば大きな誤解を生む」と指摘。

別の委員は「日本政府は再検討会議で非核保有国と核保有国のどちらの立場に立ったのか。動かなかった日本に対する被爆地のもどかしさも宣言文に加えるべきだ。もっと怒っていい」とし、米国の「核の傘」の下で核廃絶のリーダーシップを発揮しない政府への批判を含めるよう求めた。

宣言文の原案は、世界で平和活動をする市民と結び付いていくこれからの「被爆地」の姿を提示した。だが、核廃絶へ向け、一つの出発点となる再検討会議についての「被爆地」としての評価はまだ定まっていない。