核兵器と叡智
 NPT・ニューヨーク報告 3

強い日差しの下で英語のスピーチを聞く被爆者ら=米ニューヨークのタイムズスクエア付近

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核兵器と叡智 NPT・ニューヨーク報告 3 理解の壁
2万人の行進報じず

2010/05/18 掲載

核兵器と叡智
 NPT・ニューヨーク報告 3

強い日差しの下で英語のスピーチを聞く被爆者ら=米ニューヨークのタイムズスクエア付近

理解の壁
2万人の行進報じず

車のエンジン音とクラクションが交錯するニューヨークのタイムズスクエア付近。核兵器廃絶を掲げた集会は2日、鉄柵で囲った通りの一角で開かれた。日差しが照り付ける舞台前に多数の被爆者が座わり、後方や周囲は活動家、支援者ですし詰め状態。前夜、近くでテロ未遂事件が発生したため警官の姿も目立つ。

NGOの米国活動家らが次々にマイクでスピーチ。通訳はなく、汗をふく被爆者の大半は内容を理解できないでいる。やがてラップ演奏が大音量で降り注ぎ、高齢被爆者の体調を心配する支援者の声も聞かれた。長崎の被爆者の倉守照美さん(66)は「何を言っているか全然分からない。でも、私たちと同じ気持ちで一生懸命語ってくれていると思うとありがたい」と好意的に受け止めた。

平和行進が始まった。主催者発表は約2万人。「FOR A NUCLEAR FREE FUTURE(核のない未来を)!」-。国際色豊かな横断幕などを掲げ、目抜き通りでアピール。日本の報道陣も駆け回る。だが、米国メディアの記者の姿はない。翌日、現地の大手新聞に集会や行進の記事は見当たらなかった。

被爆者は約1週間、原爆展や私立学校での講話、各種フォーラム参加など精力的に活動した。しかし、まともに報道した米国メディアはなかった。「核兵器なき世界」実現へ向け核拡散防止条約(NPT)再検討会議の成果に期待する被爆者らが米国の世論を少しでも高めて後押ししようと訪米し、最初に感じた大きな壁が被爆者の動きや再検討会議を積極的に報じないメディアだった。

「米国民に伝えるために来たのに」-。被爆者の一人は悔しさをにじませた。通訳ボランティアの在米邦人女性(42)は「戦争で巨万の富を得る人たちがメディアにも大きな影響を与えている。反核反戦のことは総じて報じられない」と話す。

そもそも米国は、原爆の情報を国民にあまり提供してこなかった。それは、日本が過去のアジア侵略の歴史を国民に十分伝えてこなかった姿勢と重なる。だが、大衆が日常的に接するマスコミ情報は明らかに日本以上の「偏り」があるようだ。

元長崎大学長の土山秀夫さん(85)によると、米国メディアは、原爆投下に関しては大戦を早期に終わらせたとする「正当化」論がベース。現在は「準戦時体制」で自主規制も働き、報道の自由が狭まっているという。