私はこう思う
 被爆地五輪インタビュー 1

「五輪と核廃絶運動は両立できない」と言う山田氏=長崎市岡町、長崎被災協

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私はこう思う 被爆地五輪インタビュー 1 長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)事務局長
山田拓民氏(78)
核廃絶と両立できず
国際的な会議や集会開催を

2009/10/24 掲載

私はこう思う
 被爆地五輪インタビュー 1

「五輪と核廃絶運動は両立できない」と言う山田氏=長崎市岡町、長崎被災協

長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)事務局長
山田拓民氏(78)
核廃絶と両立できず
国際的な会議や集会開催を

広島市の秋葉忠利市長、長崎市の田上富久市長が2020年夏季五輪を被爆両市に招致する意向を表明した。国内選考に手を挙げるか否か、近く発足させる検討委員会で調査・協議し、来年2月をめどに一定の結論を出す考えだ。だが、五輪憲章は複数都市の共同開催を認めておらず、財源を含め広島、長崎で受け入れが可能か課題は山積みだ。被爆者ら長崎市民、関係者は五輪招致をどう見ているのか。

-長崎、広島両市長の表明をどう受け止めたか。

新聞報道で知り、うそだろうと思った。核廃絶に向けたこの重要な時に、被爆地で五輪なんてあり得ない。市議会にも事前に諮らずに、よくも言えるものだと思う。長崎で開くとすれば、技術的にも財政的にも大きな負担になる。そういうのが市長同士の間だけで「それはいい」と済まされるのは納得いかない。

-広島市長が会長を、長崎市長が副会長を務める平和市長会議は2020年までの核廃絶実現が目標。両市長はその最終年に合わせて開催したい意向だが、どう思うか。

五輪を開けば被爆地に世界中から大勢の人が来て、核廃絶への関心を高めることになると言うが、私はむしろマイナスと思う。1964年の東京五輪のときは長崎でさえも五輪ムード一色だった。金メダルの獲得数がいくつになったとか、そんな話題で持ちきりだった。そうした熱狂の中では核廃絶への関心はどこかにすっ飛んでしまう。

(過去の五輪がそうだったように)商業主義に引っかき回されてしまう恐れがある。財政や施設整備などの問題以前に、被爆地での五輪開催はかえって(核廃絶へ向けた動きの)邪魔になる。(そのために労力も時間も割かれてしまい)両立はできない。五輪を通じた平和の発信を大義名分のように掲げているので反対しにくい雰囲気があるが、冷静な議論が必要だ。私たち被爆者は核廃絶のため、いろいろな角度から形態も考えながら取り組んできた。日本の被爆者運動は、それなりに世界の非政府組織(NGO)から注目されている。やってきたことは決してパフォーマンスではなかった。上っ面をなでるだけの五輪開催は、どこから見ても賛成しかねる。

-長崎、広島両市には何を求めるか。

「核なき世界」への国際的な集会や会議の開催、被爆地訪問を呼び掛けるキャンペーンで各国の代表やNGOの人たち、観光客を長崎、広島に呼んでほしい。米国の「核の傘」に依存する被爆国の日本が核廃絶の足を引っ張っている。政府が堅持していると主張してきた非核三原則もいいかげんなものだったというのがはっきりした。今のあいまいな態度を許してはならない。そこを変えていくのが、(20年に向けた)これからの大事な10年間になる。

【略歴】やまだ・ひろたみ 長崎市在住。14歳の時、爆心地から3.3キロの県立長崎中学校で被爆。母親ら家族4人が犠牲になり、父親も被爆から16年後にがんで死亡。元高校教諭。1983年から現職。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)代表理事。