核なき世界へ
 NPT準備委・訪米報告 下

田上市長に行動を求めるピシオットさん(中央)=米ワシントン、ホワイトハウス前

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核なき世界へ NPT準備委・訪米報告 下 一歩 政治動かせると信じて

2009/05/24 掲載

核なき世界へ
 NPT準備委・訪米報告 下

田上市長に行動を求めるピシオットさん(中央)=米ワシントン、ホワイトハウス前

一歩 政治動かせると信じて

首都・ワシントンの空港売店は観光客らを当て込んだ「オバマグッズ」であふれていた。「これもどお?」。路上販売の店で雨傘を買い求める記者に、店の女性が薦めたTシャツは、オバマ米大統領の顔が大きくプリントされていた。

「『オバマジョリティー』という言葉を広めよう」-。来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた準備委員会に合わせ、非政府組織(NGO)「平和市長会議」の代表として長崎市長の田上富久とともに訪米した広島市長の秋葉忠利は、ユーモアを交えたこんな言葉で米政府高官や米連邦議会議員らとの「外交」を続けた。核廃絶に向けて共に行動しようとの思いを込め、大統領の名前と英語で多数派を意味する「マジョリティー」とを掛け合わせた造語だ。

オバマ大統領が四月にプラハで演説した核廃絶構想への賛意が各国から相次いだ今回の準備委。「これが世界の多数派の声なんだということを多くの人に知ってもらいたい。(外交活動への)反応は良かった。来年のNPT再検討会議に向けて、もっと大きなエネルギーが集まると思う」。訪米を総括する秋葉の表情はにこやかだった。

もっとも今回、ブッシュ前政権を支えた共和党議員らとの接触の機会はなかった。米国では「原爆投下が多くの米国人の命を救った」との歴史観が根強い。オバマ政権が目指す包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も一九九九年、共和党の反対で否決された経緯がある。「核なき世界」への正念場はこれからだ。「核廃絶には(政府間交渉だけでなく)都市やNGO、市民の役割も重要だ」。オバマ政権で核政策の中核を担うエリオット・カン国務次官補代理は、田上らにこう言って国際世論喚起の後押しを求めた。

ワシントンのホワイトハウス前。八一年から二十八年間、反核を訴え二十四時間の座り込みを続けている米国人女性がいる。スペイン出身のコンセプション・ピシオット。顔のしわが歳月を物語る。

テントと立て看板に気付き、足を運んだ田上にピシオットは求めた。「私はここを通る人に『頭の中で考えるだけでなく、行動して』と呼び掛けている。市長も核廃絶を実行に移そうと、もっと訴えてください。ノーモア・ナガサキです」。オバマの指導力に頼るだけでは「核なき世界」は実現できない、そう語るピシオットに田上は力強くうなずいた。

田上や被爆者らが帰国後の十五日、準備委は核軍縮への議論を前進させて閉幕した。「人間の運命は、私たち自ら切り開くもの」。共に一歩を踏み出そうと訴えたオバマのプラハ演説に背中を押され、初めて訪米した被爆者の城臺(じょうだい)美彌子(69)は振り返る。「オバマさんを支援しようという国がたくさんあることを確認し、光を感じた訪米だった。力ある限り、子どもたちへの被爆講話を続けて希望の光を広げたい」。手元の手帳は証言活動のスケジュールでいっぱいだ。自分たちの一歩が、大きな世論となって政治を動かす。城臺はそう信じている。

(文中敬称略)