核不拡散の岐路 
 =米印協定・被爆地インタビュー= 上

長崎平和宣言の起草委員などを務める土山氏。「被爆地がものを言わなければ、(核問題への)関心はどんどん薄れていく。被爆地の責務は大きい」と言う=長崎市、長崎原爆資料館

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核不拡散の岐路 =米印協定・被爆地インタビュー= 上 元長崎大学長 土山秀夫氏 核の傘から脱却を

2008/09/20 掲載

核不拡散の岐路 
 =米印協定・被爆地インタビュー= 上

長崎平和宣言の起草委員などを務める土山氏。「被爆地がものを言わなければ、(核問題への)関心はどんどん薄れていく。被爆地の責務は大きい」と言う=長崎市、長崎原爆資料館

元長崎大学長 土山秀夫氏 核の傘から脱却を

核兵器製造につながる核燃料や関連資機材などの輸出を管理する原子力供給国グループ(NSG、日米など四十五カ国)が今月、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドへの禁輸措置解除を特例扱いで認めた。米国、インド両国が目指す米印原子力協力協定は今後、米議会での承認に焦点が移るが、発効に向けた最大の関門を突破したことになる。協定の影響などについて被爆地・長崎の三人に聞いた。

〈今後の影響、被爆国・日本の対応をどうみるか〉

問題のポイントは三つある。まず、(エネルギー需給を安定させたい)インドの思惑と、インドを巨大な原発市場と考えた米国の野心とが一致し、強引に国際的ルールをねじ曲げた。将来、北朝鮮やパキスタンなどが「インドの特例扱いを認めたのならわれわれにも権利がある」と言い出してきたときに、今回の承認が非常に響いてくる。核拡散につながる決定だった。

◇ ◇ ◇

(米印原子力協力協定発効への最初の関門だった)国際原子力機関(IAEA)理事会も八月、インドの民生用原子炉査察に関する協定を全会一致で認めた。IAEA側はインドの核査察の対象が広がり、核軍拡を防ぐのに役立つと言うが、肝心の軍事用原子炉は黙認してしまった。インドが核保有国であることをIAEA自らが公認したことに等しい。

三つ目は被爆国である日本政府が極めてだらしない対応をしたということだ。政府はNPT体制の維持、強化は日本の責務と繰り返し主張してきたのに、(IAEA理事会でもNSG臨時総会でも容認に回り)いともあっさりとそれを翻した。日本は協定に懸念を示していたアイルランドやスイス、オランダなど六カ国と連携し、インドが核実験をした場合は特例扱いを失効させるとの項目を盛り込むなど、せめて条件闘争をするべきだった。そうしていれば局面は間違いなく変わっていただろう。

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(六カ国の懸念の深さを認識した)インドは核実験のモラトリアム(一時停止)を表明したが、シン首相は七月の下院議会では、米国との協定が発効したとしても、わが国の核実験を何ら妨げるものではないと言明している。そして日本は、地球温暖化防止に原発は有用などの理屈で協定を承認した。ナンセンスだ。核軍拡の結果、核爆弾が飛び交う事態を招けば地球温暖化防止どころではない。被爆地の要請も無視した日本政府には説明責任がある。

今回も日本は米国に追随し、主体性がなかった。結局は、米国の「核の傘」(核抑止力)に入っているという負い目以外の何物でもない。独立国家らしく主張したいのであれば、そこから脱却する道を考えろと、政府に徹底的に迫るときが来たと思う。(日本、韓国、北朝鮮で非核地帯条約を結び、米国、中国、ロシアはこの三カ国に核攻撃をしないという)北東アジア非核兵器地帯構想を推し進めていけば、結果として核の傘から出ることになる。日米安保条約と切り離して実現は可能だ。