たゆまぬ 歩み
 =被爆地からNPT準備委へ= 5(完)

平和市長会議メンバーと各国政府代表への要請活動を続けた伊藤長崎市長(左から2人目)=ニューヨーク市内

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たゆまぬ 歩み =被爆地からNPT準備委へ= 5(完) 展 望 「繰り返しは繰り返しでない」

2004/05/23 掲載

たゆまぬ 歩み
 =被爆地からNPT準備委へ= 5(完)

平和市長会議メンバーと各国政府代表への要請活動を続けた伊藤長崎市長(左から2人目)=ニューヨーク市内

展 望 「繰り返しは繰り返しでない」

四月二十六日から始まった核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会は、核兵器廃絶への具体的措置を含む提案を求めた開発途上国などの非核国グループと、これに抵抗する核保有国との対立を際立たせ、一年後に迫った再検討会議の議題さえ決められないまま、今月七日に幕を閉じた。

反核市民団体「ピースデポ」(横浜市)代表の梅林宏道は期間中、会場の国連本部を訪れ、論議を見詰めた。「一般的には、来年の見通しは暗い、といわれるでしょうね」。閉幕後、梅林は状況を冷静に分析した。

「だが、二〇〇〇年の再検討会議の『核保有国による核兵器廃絶への明確な約束』を後退させてはならないのが前提。その約束を確信犯的に破ってきた米国に妥協しながら何かを合意するぐらいなら、むしろ何もない方がましだった、ともいえる」

NPT再検討会議準備委に対する海外メディアの関心も、決して高くなかった。

「NPT準備委のニュースは、ニューヨーク・タイムズにも載っていませんでしたね」
開幕二日後、長崎市長の伊藤一長ら国際非政府組織(NGO)「平和市長会議」一行の訪問を受けた国連事務次長(軍縮担当)の阿部信泰は、苦笑しながら語った。

国連アジア太平洋平和軍縮センター所長の石栗勉は「国際問題にも、はやり廃りがある。残念ながら、今は核軍縮の流れではない」と断言する。多くのメディアの視線を集めたのは、NPT再検討会議準備委と同じ時期に開かれた国連安全保障理事会だった。

しかし石栗は、市長会議の「緊急行動」が国際世論の壁を突き動かす可能性を否定しない。

同会議には、核兵器や戦争をめぐる国の政策を超えて世界百八カ国の市長が集う。「政府要人が来日する際、広島か長崎を必ず訪れるよう、市長会議の都市がそれぞれの政府に提案するのは有効な方法の一つではないか」と石栗。

梅林も「市民から選ばれた市長たちが、核兵器廃絶に焦点を絞った点は意義深い。来年に向け、国際世論を高めるかがポイント」という。

被爆地の市長二人が果たすべき役割も大きい。梅林は「何度でも被爆の原点を訴え続けてほしい。各国の交渉相手は変わるのだから、繰り返しは繰り返しではない」と指摘する。

伊藤は今回の訪米を振り返り、ある決意を強めている。

「核兵器とは何か、放射線後障害とは何か。私たちは知っているが、世界は知らない。国境や世代を超えて理解させる方法を練り上げる。簡単明瞭(めいりょう)に、しかも瞬発的に、だ」(文中敬称略)