この声を聞いて
 =在韓被爆者リポート= 5(完)

「全員が平等に援護が受けられたら」。健康管理手当の受給資格を申請する韓国人被爆者、宋任復さん=長崎市役所

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この声を聞いて =在韓被爆者リポート= 5(完) 「手帳も手当も生きるから来た」
先行する民間支援

2003/03/12 掲載

この声を聞いて
 =在韓被爆者リポート= 5(完)

「全員が平等に援護が受けられたら」。健康管理手当の受給資格を申請する韓国人被爆者、宋任復さん=長崎市役所

「手帳も手当も生きるから来た」
先行する民間支援

「今まで手帳を持っていても、日本を出ると紙切れになった。だから、手当の受給資格を取らなかった。今度は違う。日本を出ても(被爆者健康)手帳も手当も生きるから来た」

三月初め、長崎市に健康管理手当の受給資格を申請した韓国人被爆者、宋任復(ソンイルボク)さん(70)=陜川(ハプチョン)郡=は話した。

カンパで賄う旅費

昨年末、日本政府が在外被爆者に対し手当支給を決めたことで事態は急転。過去に受給資格を取得していなかったり、失効したりしている被爆者が多い現状を見かね、長崎では、受給資格を求める韓国人被爆者の受け皿づくりが、民間レベルで始まった。

毎週金曜日、韓国・釜山市から被爆者六人が、西彼三和町の長崎友愛病院に入院、手当の受給資格申請に必要な健康診断を受ける。一週間で健診と申請を済ませ帰国。宋さんは通訳も兼ね、来日した。

旅費は、被爆者健康手帳や治療時の渡航費を国が負担する在外被爆者支援事業の枠外であるため、自己負担と長崎の支援者のカンパで賄う。

同病院がいち早く対応できたのは、約十年前から県被爆二世教職員の会と協力し、韓国人被爆者の渡日治療を実施している経験があるから。

「受給資格を取るために機械的に診断するのではない。在外被爆者が戦後、置かれた生活も含め心身の状態を見て、少しでも長く生きるために尽くしたい」。茅野丈二院長は渡日健診を始めた理由をこう説明する。

一方で、民間支援の限界も明かす。「これだけ多くの人を長期間、受け入れるのは初めて。言葉や食事、生活習慣などさまざまな問題が予想されるが、できる限り続けたい」

山積みされた課題

長崎市原爆被爆者対策部によると、一日付で手当支給に関する政省令が改正されたが、具体的な送金方法は決まっていないという。受給資格を取得したことがある在外被爆者の数や住所を特定する作業が残り、まだ時間がかかりそうだ。

動きだした民間支援の一方で、来日できない被爆者の問題は残されたまま。「私たちはいいが、韓国には来日できない人がたくさんいる。手放しで喜べない」。宋さんは複雑な表情を見せた。

「現地での手当申請を求める運動と今の渡日健診は矛盾している。だが、再び長い時間をかけて解決するのは現実的でない」。韓国人被爆者を支援する平野伸人さん(56)は、次を見据える。「被爆者のエネルギーがあるうちに、何が必要か実態を細かに訴え、国を救済の立場に立たせるまで運動は終わらない」