核軍縮の危機
 =米国へ届け長崎の声= 5

米国防総省資料の「ミサイル防衛概要」にある海上迎撃のイメージ図。右下に九州があり、本県の海岸線も見える=IPPNW提供

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核軍縮の危機 =米国へ届け長崎の声= 5 ミサイル防衛
国防総省資料に「長崎」

2002/06/29 掲載

核軍縮の危機
 =米国へ届け長崎の声= 5

米国防総省資料の「ミサイル防衛概要」にある海上迎撃のイメージ図。右下に九州があり、本県の海岸線も見える=IPPNW提供

ミサイル防衛
国防総省資料に「長崎」

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の大会のため米国にいた長崎大医学部教授、朝長万左男(59)は五月二日、ワシントンのビルの一室で、米国人官僚の話を聞いていた。

IPPNWが意見交換のため招いたミサイル防衛分野の国防総省幹部。デイブ・キーファーというその官僚は、参加した朝長を含む各国十数人の医師に説明資料を配った。米政府の報告書「核体制の見直し」が公表されたばかりの一月、同省が作成したミサイル防衛の概要だった。

英文資料のページをめくっていた朝長は、カラー刷りのイメージ図の一つに目を奪われた。

そこには長崎が描かれていた。

中国か朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)付近からミサイルが打ち上げられている。その弾頭に日本海に浮かぶ軍艦が迎撃ミサイルを命中させている。命中した真下には朝鮮半島が、すぐ脇には北部九州が描かれている。迎撃弾がさく裂している図の中に、はっきりと長崎が見える。

「敵ミサイルを、速度の遅い発射後十分以内の上昇段階で海上迎撃している絵。アメリカという国は、こんな研究を日本海を舞台に本気で、しかも具体的にしている」

ミサイル防衛の内容や、日本がその共同研究国であることは当然知っていた。だが、長崎が描かれた絵を見て、朝長は「初めて現実に気付かされた」と話す。

ミサイル防衛は、米ロ両国が互いに防御措置を限定することで均衡核抑止の効果を保障してきた弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約に抵触する。米国は昨年、条約離脱を表明。両国間安保で最長の三十年続いた条約は今月、失効した。

「米ロは戦略核を大幅に減らすが、ミサイル防衛で米国一国だけが『ならず者国家』からの攻撃も含め防御する能力を得ようと突き進んでいる。そんな状況を、他国が傍観するだろうか」

ロシアや中国は、ミサイル防衛を破る新兵器開発を目指さないか。さらに、それを防御する兵器の開発に米国はエネルギーを注ぐのか。朝長には「たとえミサイル防衛を完成できても、核軍拡の悪循環が待っている」と見える。(敬称略)