ピースサイト関連企画

核軍縮の危機 =米国へ届け長崎の声= 2 暗 転
逆行続けるブッシュ政権

2002/06/26 掲載

暗 転
逆行続けるブッシュ政権

現状の国際安全保障の基軸といえる核拡散防止条約(NPT)は、核保有国にその“地位”を与える代わりに、地下核爆発実験をやめさせる包括的核実験禁止条約(CTBT)を生み出した。

このCTBTを米国が葬り去ろうとしているのが露見したのは昨年夏。同十一月のCTBT発効促進会議に米国は参加せず、その方針は国際舞台の場で裏付けられた。

既にブッシュは大統領就任早々、戦略核の大幅削減と、それと併せたミサイル防衛計画推進の方針を打ち出していた。

市民団体、核兵器廃絶ナガサキ市民会議は九月初め、めまぐるしく動く米国の姿勢を危ぐ、記者会見を開いた。共同代表の長崎平和研究所長、鎌田定夫(今年二月死去)は「二十一世紀の始まりとともに登場したブッシュ政権は、すべてを暗転させた」と怒った。その一週間後、米国の世界貿易センタービルで悲劇が起きた。

9・11の同時テロ後、禁句だったはずのことが、公然と取りざたされるようになった。米軍が戦術核使用に踏み切る可能性、地下核実験再開へ向けた米国の意欲…。

被爆地長崎で、同時テロは世界を変えた「契機」としてではなく、米国が一国主義を加速させる「口実」(長崎市長の伊藤一長)と映った。

前政権のクリントン時代、米国が核軍縮の世界的流れに逆行してみせることはまれだった。少なくとも政権としてはCTBTを支持していた。スローテンポな核軍縮であっても、決して軍拡方向への逆戻りはしないという「不可逆原則」に抗する態度をむき出しにすることもなかった。

米国とロシアは先月、戦略核を今後十年で各三分の一に減らす戦略攻撃兵器削減条約に調印した。しかし削減弾頭は備蓄、再配備が可能とされ、両国にとって核軍縮は不可逆ではなくなった。そして、新条約の登場で、米ロが三十年来積み上げた戦略兵器削減交渉(START)は宙に浮いた。

「いったい、いくつの国際条約をほごにすれば気が済むのか」。日本被団協代表委員の山口仙二(71)は、米国が動くたびにまくし立てた。「今までの努力が全部ぶち壊しじゃないですか」(敬称略)