核軍縮の危機
 =米国へ届け長崎の声= 1

平和使節団はテロから7カ月たった米国を訪ねた。市民との交流集会で核兵器廃絶を語る山川剛=5月3日、米国アトランタ

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核軍縮の危機 =米国へ届け長崎の声= 1 廃墟
テロ契機 高まる愛国心

2002/06/25 掲載

核軍縮の危機
 =米国へ届け長崎の声= 1

平和使節団はテロから7カ月たった米国を訪ねた。市民との交流集会で核兵器廃絶を語る山川剛=5月3日、米国アトランタ

廃墟
テロ契機 高まる愛国心

核軍縮が危機にひんしている。米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)や戦略兵器削減条約(START)といった二十世紀に世界が積み上げた核軍縮の枠組みを否定し、力を背景として強引に行動する一国主義に踏み出した。被爆地から核兵器廃絶を官民で叫び、その前進を注視してきた長崎は、核情勢の変質に戸惑いをみせている。この一年の激変と長崎の表情を追った。

四月末のニューヨーク。核実験に抗議する長崎市民の会世話人の山川剛(65)は、世界貿易センタービルの跡に居た。

高層ビルが立ち並ぶ一角に、サッカー場ぐらいの広さがぽっかりと空いている。「あの日の廃虚はもっと広かったな、と思い出していた。見渡す限り何もなかった」。だが、その場で会った米中枢同時テロ被害者の遺族と話すうち、被爆直後の長崎と比べるのをやめた。「肉親を亡くし、自分も傷ついた悲しみは同じだから」

同じころ、ワシントンでは、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の総会が開かれていた。日本支部から出席した長崎大医学部教授、朝長万左男(59)は、予想通りの激論を聞いていた。

9・11以降、米国支部の中に「テロリストに核が渡るのを阻止する」ため、米大統領ブッシュ支持の論調が広がった。すかさず欧州の支部から「米国のその態度が次のテロを生む」と批判が浴びせられた。ノーベル平和賞も受けた世界的反核団体は一致した方向を失ったまま、総会を迎えていた。

役員改選では、複数会長制を一人にする動議が承認された後、選挙に移り、マレーシアの医師が勝った。米国人が会長から外れたのは創立以来初めての事態だ。

「IPPNWの米国支部は、政治的には非常に穏健。その米国支部でさえ、テロ後の愛国心の高まりに抗することは難しかったのだろう」。朝長はそう推測しながら「新会長の下で、運動をどう展開するかだ」と漏らした。

山川が参加したヒロシマ・ナガサキ反核平和使節団が見たのも、ブッシュの「テロとの闘い」を支持する大多数と、反戦を叫ぶ少数が混在する米国だった。

複数の民主党下院議員の事務所を訪ね、政策スタッフに会った。「四百人以上いる下院議員の中で、四十―五十人は核兵器廃絶を支持しているが、それは内心の話。今、そんな態度を表明すれば選挙で落とされる―とそんな話を聞かされた」。山川は暗然とする一方、「希望がないわけではない」とも感じた。 (敬称略)