婚活ツールとして普及するマッチングアプリを巡り、既婚者であることを隠して性的関係を持つ「独身偽装」問題への関心が高まりつつある。背景には、性加害に厳しい目を向ける世論の流れに加え、相手に裏切られ心に傷を負ったにもかかわらず、勇気を出して声を上げ始めた被害者たちの存在がある。
「潮目」の変化を印象づける出来事があった。既婚者であることを隠して交際を続けたのは、関係を結ぶ相手を自ら選ぶ「貞操権」の侵害に当たる-。神奈川県の会社員女性がマッチングアプリで出会った男性に約780万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は今月8日、貞操権侵害による不法行為を認め、男性に約150万円の支払いを命じた。
判決内容はマスコミでも広く報じられた。原告女性は「これまで『男女トラブル』『不倫』と扱われていたが、この1年ほどで社会の認識が変わり始めた。今回、貞操権侵害が全面的に認められ、独身偽装が不法行為だと示せた意義は大きい」と語った。
東京地裁判決などによると、女性は2023年5月、独身者限定のアプリを通じ、大手広告代理店に勤務する30代男性とつながった。男性は既婚事実を隠して近づき、交際。断続的に性交渉もあった。
女性は結婚も考えていたが、出会いから4カ月後、男性が一方的に全ての連絡手段を遮断。女性が探偵に依頼し男性の身辺調査をすると、妻子がいることが発覚した。男性は既婚事実を認めたが、最後まで謝罪はなかった。
男性側は訴訟で、交際は結婚前提ではなく、性交渉を目的とした関係だったと主張。だが判決は、男性が独身であると誤信させる虚偽の言動を繰り返し、女性が結婚も見据えたものであると認識したことは「自然」とし、不法行為に当たると認定した。
■被害者の会
裁判と並行し、女性は昨年6月、「独身偽装被害者の会」を立ち上げ、X(旧ツイッター)などで情報発信を開始。これまで声を上げられなかった被害者らがつながり、被害の実態を訴えている。被告男性の尋問の際には傍聴席に約50人の仲間やメディア関係者らが集まったという。
同会が相談フォームを開設(現在は一時閉鎖)すると「対応できないほど殺到した」。女性は「泣き寝入りした過去の出来事を被害と気付いた人も多かった」と推測する。「これまで単なる男女トラブルと捉えられ『弁護士難民』になる被害者が多かったと聞く。今回の判決を機に関心を持つ弁護士が増えてくれれば、多くの被害者が救われる」と期待を口にした。
■世間の反応
貞操権の侵害が認められた判例は以前もあった。ただ「世間の反応は『なんでだまされるの』って、だまされた方が悪いような空気感さえあった」。東京在住の別の30代女性は自身の訴訟をそう振り返る。
女性は20年5月、マッチングアプリで知り合った男性と交際を開始。22年12月に妊娠が発覚したところ、男性に中絶を迫られた。1人でも産むと決断した23年2月、相手に妻子がいたことが判明。すでに妊娠中期に入っており、同年8月に出産した。
女性は男性を相手取り提訴。昨年11月、貞操権侵害が認められ、男性に88万円の支払いが命じられた。女性は言う。「自分の人生は壊されたのに加害者が普通に生活している理不尽さを社会に知ってほしかった。自分は悪くないという名誉回復の意味もあった」
女性は今年3月から、独身偽装の厳罰化を求めるオンライン署名を展開。これまでに1万3千筆以上が集まった。賛同の輪は全国に広がっている。
■変化の兆し
昨年、長崎新聞の取材に被害を打ち明けた長崎県在住の30代女性も、「『貞操権侵害』や『独身偽装』という言葉が社会的に認知されることで問題が実態として浮かび上がってきた」と変化の兆しを感じ取る。
仕事の傍ら、被害者の会の仲間と連携し、「独身偽装」の刑事罰化に向けて国会議員らへの働きかけも。だが、活動に力を入れることは、裏を返せば自身の被害と向き合い続けることでもある。泣きたくなる夜もある。
それでも「次の世代の人たちに私たちと同じようなつらい思いをしてほしくない」と話し、こう続けた。「逃げ得を許さない社会にしたい、その思いです」
「潮目」の変化を印象づける出来事があった。既婚者であることを隠して交際を続けたのは、関係を結ぶ相手を自ら選ぶ「貞操権」の侵害に当たる-。神奈川県の会社員女性がマッチングアプリで出会った男性に約780万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は今月8日、貞操権侵害による不法行為を認め、男性に約150万円の支払いを命じた。
判決内容はマスコミでも広く報じられた。原告女性は「これまで『男女トラブル』『不倫』と扱われていたが、この1年ほどで社会の認識が変わり始めた。今回、貞操権侵害が全面的に認められ、独身偽装が不法行為だと示せた意義は大きい」と語った。
東京地裁判決などによると、女性は2023年5月、独身者限定のアプリを通じ、大手広告代理店に勤務する30代男性とつながった。男性は既婚事実を隠して近づき、交際。断続的に性交渉もあった。
女性は結婚も考えていたが、出会いから4カ月後、男性が一方的に全ての連絡手段を遮断。女性が探偵に依頼し男性の身辺調査をすると、妻子がいることが発覚した。男性は既婚事実を認めたが、最後まで謝罪はなかった。
男性側は訴訟で、交際は結婚前提ではなく、性交渉を目的とした関係だったと主張。だが判決は、男性が独身であると誤信させる虚偽の言動を繰り返し、女性が結婚も見据えたものであると認識したことは「自然」とし、不法行為に当たると認定した。
■被害者の会
裁判と並行し、女性は昨年6月、「独身偽装被害者の会」を立ち上げ、X(旧ツイッター)などで情報発信を開始。これまで声を上げられなかった被害者らがつながり、被害の実態を訴えている。被告男性の尋問の際には傍聴席に約50人の仲間やメディア関係者らが集まったという。
同会が相談フォームを開設(現在は一時閉鎖)すると「対応できないほど殺到した」。女性は「泣き寝入りした過去の出来事を被害と気付いた人も多かった」と推測する。「これまで単なる男女トラブルと捉えられ『弁護士難民』になる被害者が多かったと聞く。今回の判決を機に関心を持つ弁護士が増えてくれれば、多くの被害者が救われる」と期待を口にした。
■世間の反応
貞操権の侵害が認められた判例は以前もあった。ただ「世間の反応は『なんでだまされるの』って、だまされた方が悪いような空気感さえあった」。東京在住の別の30代女性は自身の訴訟をそう振り返る。
女性は20年5月、マッチングアプリで知り合った男性と交際を開始。22年12月に妊娠が発覚したところ、男性に中絶を迫られた。1人でも産むと決断した23年2月、相手に妻子がいたことが判明。すでに妊娠中期に入っており、同年8月に出産した。
女性は男性を相手取り提訴。昨年11月、貞操権侵害が認められ、男性に88万円の支払いが命じられた。女性は言う。「自分の人生は壊されたのに加害者が普通に生活している理不尽さを社会に知ってほしかった。自分は悪くないという名誉回復の意味もあった」
女性は今年3月から、独身偽装の厳罰化を求めるオンライン署名を展開。これまでに1万3千筆以上が集まった。賛同の輪は全国に広がっている。
■変化の兆し
昨年、長崎新聞の取材に被害を打ち明けた長崎県在住の30代女性も、「『貞操権侵害』や『独身偽装』という言葉が社会的に認知されることで問題が実態として浮かび上がってきた」と変化の兆しを感じ取る。
仕事の傍ら、被害者の会の仲間と連携し、「独身偽装」の刑事罰化に向けて国会議員らへの働きかけも。だが、活動に力を入れることは、裏を返せば自身の被害と向き合い続けることでもある。泣きたくなる夜もある。
それでも「次の世代の人たちに私たちと同じようなつらい思いをしてほしくない」と話し、こう続けた。「逃げ得を許さない社会にしたい、その思いです」

