長崎の障害者施設 虐待発覚1年半 ガバナンスが機能不全の疑い 被害者らの心のケア 置き去り

長崎新聞 2026/09/24 [11:00] 公開

長崎市の特別監査報告書には、障害者に暴行をはたらいていた職員に別の職員が「カメラ、カメラ」と注意を促したことなどが記されている

長崎市の特別監査報告書には、障害者に暴行をはたらいていた職員に別の職員が「カメラ、カメラ」と注意を促したことなどが記されている

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長崎市内の生活介護施設の職員が昨年春、意思表示や抵抗が困難な障害者を虐待していた事件が発覚して間もなく1年半となる。この間、同市の特別監査で複数の職員が複数の障害者に虐待を加えていた具体的な事実が明らかになり、施設のガバナンス(組織統治)が機能不全に陥っていた状態が疑われる。一方、被害者や家族の心のケアは置き去りにされたままで、行政などによる早急な支援が求められる。

 「カメラ、カメラ」。昨年3月7日、施設のサービス利用者に暴行をはたらいていた職員に別の職員が注意を促した。同じ日、職員がカメラの死角となるトイレに利用者を引っ張り込み、その後、悲鳴のような声が聞こえたという。

 市は特別監査の報告書で、この日が「特に虐待が激しかった」と判断。行為をそばで目撃した複数の職員も「制止する行動を取っていない」とし、「カメラ、カメラ」と発した職員については「虐待に対する認識レベルの低さ」を指摘した。

 市は、この前後約1カ月間のカメラの録画映像を調べ、複数の職員による約200件の虐待や不適切行為を確認。▽平手打ちをする▽床に押さえつける▽髪をつかんで後ろに引き倒す▽排せつの失敗を嘲笑する▽バカなど侮辱的発言をする▽利用者のリュックを投げつける-などで、日常的に身体的、心理的虐待を加えていたことが明らかになった。

 市は「サービス管理責任者(サビ管)が短期間で交代し、長期在職する職員の言動が強くなっていった。サビ管などへの報告をためらう職員がおり、虐待が疑われる事案が日常化していた可能性がある」と分析。いわばガバナンスが効いていない状態で、カメラの映像も定期的に確認していなかったという。

 施設の元職員は「運営側の責任も大きい」と言う。「パワハラのような言動で、ベテラン職員が体調を崩し、相次いで辞めていった」と証言する。事件発覚後、運営側にいた施設長や虐待に関わった職員の多くが辞職したという。

 ただ、この施設では過去10年間で虐待に関する監査・調査は3回に上る。元職員は「人が代わっても運営側が責任を持って再発防止に取り組まなければ、同じことを繰り返すのではないか」と疑問視する。

 特別支援学校の教員経験がある大村市身体障害者団体連合会の松尾眞人会長(70)は「技術や知識が乏しい先輩職員が力任せに利用者を制止している姿を見せると、後輩はそれが正しい方法と勘違いする」と話す。「労働に見合わない待遇や介助のストレスなどが重なり、そのはけ口として虐待が起きる可能性がある」としつつ、「虐待は犯罪であり、許されない。不断の労働環境の改善が不可欠」と言う。

 一方、被害者やその家族は今も施設側から詳しい説明はなく、苦しみ続けている。利用していた娘が医師から「心的トラウマ反応」との診断を受けた保護者は「娘が施設を利用していた15年間、家族は気が休まる日はなかった。自宅で料理をひっくり返したり大きな奇声を発したり泣き続けたり。深夜も眠らず家の中を歩き回るので家族も寝られない。この障害と一生付き合っていくしかないのかと悩み続けていたが、施設を退所後、こうした行動が緩和された。虐待に気付いてあげられなかったことを後悔している」と語った。

 長崎新聞は施設に取材を申し込んだが、「何も話すことはない」と応じなかった。
 また保護者は市に対しても「1カ月間の映像を確認しただけで、調査は不十分」と批判する。「虐待によるけがは確認されていないというが、娘は施設から帰るとたびたび体にあざをつくっていた。『心的な傷害』についても市から確認されていない。なぜ被害者や家族に寄り添わないのか」と訴えた。