日本と台湾で異なる救済姿勢…カネミ油症の発覚から57年 「認定」か「登録」か

長崎新聞 2025/10/10 [10:01] 公開

日本と台湾の油症 制度比較

日本と台湾の油症 制度比較

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長崎県など西日本一帯で広がったカネミ油症は1968年に発覚し、10日で57年。当時1万4千人以上が被害を届けたが、今年3月末時点で全国の認定患者は累計2389人(死者ら含む)にとどまる。未認定者や次世代の救済の壁となっているのが、油症の主因ダイオキシン類の血中濃度など科学的数値を基準とした厳格な認定制度だ。同じ油症問題について「登録制度」で救済を進めてきた台湾と比較してみると、被害者救済に向き合う国の姿勢の違いが浮かび上がった。
 日本では、全国油症治療研究班(事務局・九州大)が患者の臨床データや血中ダイオキシン濃度の測定を重ね、診断基準に基づき認定。認定患者の子や孫ら次世代を対象とする調査は、ようやく2021年度から始まった。母体からダイオキシン類が子に移行した可能性を踏まえ、影響把握を目指しているが、救済制度への反映は見通せない。
 台湾でも食用油に混入したポリ塩化ビフェニール(PCB)により1979年、台中市を中心に油症が発覚。約2千人が皮膚障害や神経症状を訴えた。台湾政府は包括的な登録制度を導入し、症状や居住歴を基準に、一括して「油症患者」として登録。母親が1世患者の場合、その子は自動的に2世患者と定義される。2016年末時点の生存登録者は1854人(うち2世585人)。世代をまたぐ被害を記録し、研究や政策に活用する体制を整えている。一方、日本で油症認定された次世代患者は、厚生労働省によると24年度の調査で58人(うち長崎県13人)しかいない。
 亡くなったわが子の認定を求め続けた五島市奈留町の認定患者、故・岩村定子さん(享年75)は、次世代救済を目指す「へその緒プロジェクト」に尽力。今年3月に亡くなる直前まで「油症患者の子どもは全員救済を」と訴えていた。東京の支援者、藤原寿和・日台油症情報センター長は「登録されること自体、被害を認められたという安心感や社会的効果をもたらす。少なくとも母親が油症患者なら、その子は救済枠に入れるべきだ」と訴える。
 厚生労働省は認定の基準について「最新の科学的知見に基づき、随時見直しを行っていく必要がある」とするが、台湾の登録制度に関しては「各国の施策については承知していない」と一線を画す。ただし、母親を介してダイオキシン類が移行する可能性は認めており、次世代調査の意義を強調する。
 藤原氏は「日本の厳格な認定制度と台湾の包括的登録制度。その違いは科学的証明と社会的包摂のどちらを優先するのかという姿勢」とし、「救済の本質は人を守ることにある。科学と制度のはざまで取り残される被害者を生まない仕組みを築くべきだ」と指摘する。