「リーダーを引き留めて」議会アドバイザー・田口一博氏 小値賀町議会の行方・5完

2023/02/11 [11:40] 公開

オンラインでインタビューに答える田口准教授

 北松小値賀町議会の「議会アドバイザー」を務める新潟県立大国際地域学部の田口一博准教授(61)に、議員のなり手が不足する背景や地方議員の役割について聞いた。

 -同町は若者がなかなか町議選に立候補せず、女性議員がいない。
 議員として働こう、働ける、という住民が非常に少ない。これは小値賀に限らず全国の町村共通の悩み。リーダーシップがあり、議員になってほしい女性や若者が地方から真っ先に流出している。厳しい言い方をすれば、議員候補になれる人がそもそもいないのが地域の実情だろう。

 -同町役場にも、これまで課長以上の女性幹部職員が1人もいない。
 女性政治家を研究するグループが「役場に女性管理職がいないと女性議員も現れない。その数は比例する」という研究結果を発表している。女性がリーダーシップを振るうのが当然、という雰囲気をまず役場がつくらないと、女性が議員になっても活躍できないと(住民が)思い込んでしまう。若い女性が希望を持って町に残るには、身近な所に活躍できる場が必要。大学生に聞いても、同じような答えが返ってくる。

 -町議会が自ら町議選立候補者を募っている。
 議会だけが人材不足なのではなく、自治を担う裾(すそ)野から足りない。本当は選挙管理委員会や明るい選挙推進協会などの仕事だが、人がいない。自らの選挙で不利になるのに小値賀町議会はよくやっていると思う。

 -議員のなり手不足は今後も続きそうだ。
 長崎県全体に言えることだが、地域を引っ張る人材が張り付いて生活できる産業なり職業基盤なりをつくって、彼らを引き留めることが大事。(全国では)居住地で市議になり、勤め先は別の市町というのは珍しくない。一方、小値賀に住み佐世保市で働くのは、交通問題があり事実上不可能。離島はその点で決定的に不利だ。
 議員志望者だけではなく、地域に貢献する団体の人材が全国で減っている。ここ30年ぐらいで、仕事がきつくなり収入も減り、(議員に)なりたくてもなれない人が増えた。

 -地方議員の役割とは。
 行政がしない仕事を進んで引き受ける。問題があれば県に掛け合い、県議に相談する。国会に要望する。議員は議会活動だけではなく、(労力の)8~9割をそういう政務活動に充てている。
 小値賀町議会には政務活動費がない。それでも議員は磯焼けを解消するための実験などもやってきた。「努力が足りない」と言う人もいるが、報酬月額18万円で、そこまでしている人たちの姿を見れば「自分ならできない」と普通の人は(選挙で)手を挙げられない。出馬のハードルを上げ過ぎている面もあるのではないか。

 【略歴】たぐち・かずひろ 1962年生まれ。84年から2008年まで神奈川県横須賀市職員。東大大学院法学政治学研究科特任講師などを経て10年から現職。専門は政治学、新領域法学。18年2月から小値賀町議会アドバイザーを務める。