島原半島デマンド交通<4> 南島原市 地元タクシー事業者との競合懸念も

2023/02/01 [12:40] 公開

高齢者を中心に利用者が増えている「チョイソコみなみしまばら」=南島原市加津佐町

 「島鉄 バス2路線廃止 南島原市内3区間 9月末で」-。
 昨年6月1日、本紙地域経済面の小さな記事に衝撃が走った。「近くの親戚にお買い物を頼むのも気が引ける。気軽に乗れるバスもなくなったら…。施設入所も考えないとね」。長崎県南島原市加津佐町の山間部に住む独居女性(81)がさびしそうにつぶやいた。
 島原鉄道(島原市)の伊達佳伸自動車部長は「少子高齢化の影響で輸送人員の減少は著しい。運行回数を減らすなど経常損失の抑制は図ってきたが」と苦しい胸の内を吐露する。
 路線バスの廃止や減便が加速する半島内でも中山間地域が多い南島原市が3市でも深刻だ。半島を周回する国道251号の沿岸部(横軸)は商業施設が集積し利便性は高いが、市北部の中山間地域から沿岸部(縦軸)を結ぶ交通網の存続が課題となっている。
 市や市社会福祉協議会などで構成する「市地域公共交通活性化協議会」は昨年9月、同市西部の「加津佐、口之津両町」と「南有馬、北有馬両町」の二つのエリアで、予約を受けて乗り合い車両を運行する「デマンド交通」(チョイソコみなみしまばら)の導入に向けた実証実験を始めた。

チョイソコみなみしまばら

 4人乗りの小型タクシー計2台で、平日午前9時半~午後4時半、地域住民を商業施設や公共施設、路線バス停留所、病院などスポンサー停留所に送迎している。
 両地区内計210カ所(昨年11月末現在)の乗降場所で自由に乗降可能で、片道300円と格安。1週間前から乗車30分前に電話やネットで予約できるため、「事業が浸透し、高齢者を中心に利用者数が増えている」(市地域づくり課)。両エリア計4町の登録者は627人で、11月末までの利用者は延べ1311人(1日の平均利用者23人)だった。
 昨年12月13日の担当は、地元タクシー会社勤務の山村和則さん(57)。世間話に花を咲かせる間に、助手席に備え付けられたタブレットに予約が次々に入る。「人工知能(AI)がルートと時間を変更するので、指示通りに走らせるだけ」と声を弾ませた。
 ただ、「もろ手を挙げて喜べない」と山村さん。タクシーで長距離を利用していた“上客”が「チョイソコ」に流れるケースもあり、地元タクシー事業者との競合が懸念されるからだ。同課は「既存のタクシー・バス事業者への影響が少なくなるよう十分協議を重ね、共存を図っていく」としている。