魚醤で五島の海を守る 磯焼け防止、原料に食害魚 ツバキ酵母で仕込む

2020/09/22 [23:51] 公開

4年をかけて完成した「五島の醤」を手にする金澤代表(左)と谷川代表(右)。醸造所は旧富江幼稚園の園舎内にある=五島市富江町

 長崎県五島市富江町の鮮魚卸業「金沢鮮魚」が、島のツバキから採取した酵母で仕込む魚醤(ぎょしょう)「五島の醤(ひしお)」を開発した。金澤竜司代表(57)の根底にあるのは「五島の海を守る」との思い。磯焼けを引き起こす食害魚や市場に出回らない規格外の小魚を原料に使い、環境保全や持続可能な漁業を目指す。「五島うどんやかんころもちに続く特産品に」-。味にも絶対の自信を抱き、来月発売する。
 金澤さんは、磯焼けや漁業後継者の不足など、島の海を巡る環境が「加速的」に変わる様子を目の当たりにしてきた。食害魚を含む「未利用魚」を魚醤に加工して付加価値を高め、全国に流通させることで、駆除するだけではない持続的な環境保全活動や、漁業者の所得向上につなげたいと構想を温めていた。
 開発には4年を要した。五島ならではの味を追い求め、魚醤の発酵には、島に自生するヤブツバキの花から取り出した「五島つばき酵母」を使用している。市商工会が発見し、同市の企業「五島の椿」(谷川富隆代表)が引き継いで新商品開発などに活用している酵母だ。金澤さんによると、五島つばき酵母を使うと熟成が早く、魚醤特有の生臭さを抑えたフレッシュな香りになるという。
 原料の魚は、藻を食べるイスズミやアイゴなどの食害魚、規格外のアジなど数種類をブレンドし、まろやかな味わいに仕上げた。全国の料理人からも「良い味」と好評で、既に島内の加工業者や飲食店も、この魚醤を使った商品作りを進めている。
 販売にも「五島の椿」が協力し、10月中旬から島内各地のスーパーや土産品店、インターネット通販などで売り出す。醸造時にこうじを使い分け、2種類を商品化。大豆と小麦のこうじを使った魚醤は濃い色合いで香り高く、米こうじの方は淡い色ですっきりとした味わいという。150ミリリットル入り850円~。
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 金沢鮮魚と五島の椿は、「五島の醤」の商品化に合わせ、ネット上で資金を募るクラウドファンディング(CF)を実施中。目標額は100万円で、資金の30%を島内の子どもたちに磯焼けの現状を伝える啓発活動や、環境保全活動に充てる。返礼品には魚醤の他、ツバキ由来成分を配合したせっけんやオイル、鮮魚、島の旬野菜などがある。CFサービス「READYFOR」で10月9日まで支援を受け付けている。