アマビエの先輩? 平戸に現れた妖怪「姫魚」 疫病の流行予言

2020/07/25 [23:29] 公開

平戸の浜に現れたとされる姫魚。「絵を家に貼れば病気を避けられる」と説いている(西尾市岩瀬文庫提供)

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、江戸時代の肥後国(現在の熊本県)に現れたとされる妖怪「アマビエ」が話題に上っている。実はアマビエの出現より約25年前、同じように疫病の流行を予言し、姿を描いた絵を見れば病を逃れられるという妖怪が本県の海岸に現れたとされる資料や絵が残っているが、あまり知られていない。その名は「姫魚(ひめうお)」。
 姫魚の絵は国内に複数、現存する。その一つ、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)所蔵の姫魚図は1819(文政2)年に描かれたとされる。
 同館の資料によると、姫魚は「肥前国平戸」の沖に浮き上がった竜宮の使いという。人の言葉を話し、これから7年間は豊作だが、「ころり」という病がはやり多くの人が死ぬと予言。「我姿を絵に書一たひ見ハ此病をのかるへし」(私の姿を絵に描いて一度見れば、この病気を逃れられるだろう)と言い、再び海へ帰って行った。顔は人、体は魚、体色は金で長い髪を持つと記されている。
 姫魚やアマビエのような妖怪は「予言獣」と呼ばれ、全国で他にもいくつかの種類が確認されている。予言獣に詳しい福井県文書館(福井市)の長野栄俊主任によると、予言獣は地域の信仰や伝承ではなく、江戸や上方といった都市の町人向けに出版した瓦版のおまけなどの目的で創作されたと考えられている。その中でも平戸が舞台になったものは現存するもので4件あり、海外に開けたイメージから連想された可能性があると推測されるという。
 新型コロナ禍で一躍有名になったアマビエに比べ、姫魚の知名度はまだまだ低い。だが、他県では既に姫魚を広める活動に取り組む施設もある。
 愛知県にある古書専門の博物館、西尾市岩瀬文庫では所蔵資料「以文会随筆」に載っていた姫魚の画像や、それを基にした塗り絵をホームページ上で公開。子どもたちから寄せられた塗り絵を展示する予定。
 同文庫所蔵の姫魚もやはり平戸に現れたとされ、自分の姿を家の中に貼るよう促している。同文庫学芸員の林知左子さんによると、疫病よけのおまじないとして大坂(当時、現在の大阪)の繁華街で売りさばかれたもので「アマビエの先輩」という。
 今回、姫魚を塗り絵などで活用したのは、少しでも明るい話題を提供したかったため。林さんは「姫魚の誕生から約200年。疫病の流行に際して何かにすがって心の平安を願った当時の人の思いは、今の私たちだからこそ共感できるのでは」と話した。
 本県ゆかりの妖怪、姫魚。アマビエと並んで絵画やお菓子の題材になる日がいつしか来るかもしれない。