盲目の小学生 ピアノの弾き語りでみんなに笑顔を

2019/07/28 [10:48] 公開

弾き語りをする道辻結那さん=諫早市内の自宅

 彼女にとって、音楽は「大好きなもの。歌うと元気になれるもの」です。Superfly(スーパーフライ)の「愛をこめて花束を」に、中島みゆきの「糸」-。ピアノを弾きながらパワフルに、時には柔らかく、歌声を響かせています。ただ、彼女は目が見えません。感じられるのは、わずかな光と影。でも、人一倍好奇心旺盛で負けず嫌い。何にでもチャレンジする女の子です。

 長崎県諫早市多良見(たらみ)町の道辻結那(みちつじゆな)さん(9)は、県立盲学校小学部の4年生。生後4カ月のとき、ヘルペス脳炎で視力を失いました。40度前後の高熱が5日間続いたそうです。母の詩織さん(33)は「見て覚えることがたくさんあるのに、どう育てたらいいのか不安だった」と、当時を振り返ります。

 ■恥ずかしさに勝つ

 でも、結那さんは1歳で50音をマスターし、歌を口ずさむようになったのです。友人が弾くピアノの音色を聞いて「わたしもやりたい」と言い出し、4歳の秋から、町内のピアノ教室「ミュージックスパイス」に週1回、通うようになりました。

 結那さんはまず、グランドピアノの大きさや、一つ一つの鍵盤の幅を覚えることから始めました。色が分からないため、先生の中村沙樹(なかむらさき)さん(40)は黒い鍵盤を「でこ」、白い鍵盤を「ぼこ」と説明。結那さんは位置を覚えるのが難しくてくじけそうになりましたが、「間違える恥ずかしさに勝ちたい」。その一心で、全88音ある鍵盤の位置を半年かけて覚えました。

 ■パワフルな歌声で

 もともと歌が大好きな結那さん。昨年秋、歌に専念するためピアノをやめようと思いました。でも、中村さんから「歌手はたくさんいる。でも結那ちゃんはピアノも弾ける。同時にできるアーティストはかっこよくない?」と勧められ、弾き語りをする歌手になろうと決めました。

 パワフルな歌声が持ち味。今年1月からは長崎市内で毎月3回、大人に交じってゴスペルの練習をしています。「1人で歌うのもいいけど、みんなで歌うのも楽しい」。詩織さんは「声に表情が出てきた」と成長を感じ取っています。

 昨年12月のピアノ教室の発表会では、わずか2カ月間で仕上げた「愛をこめて花束を」を、弾き語りで初披露しました。今月13日には、こどもの城(白木峰町)で施設スタッフと急きょ、ミニライブを開催。あっという間に100人ほどが集まり、結那さんの弾き語りに聞き入っていました。

 「『上手だったよ』って言ってもらえるのがうれしい。また頑張ろうって思う」と結那さん。レパートリーを増やそうと、新しい曲にも挑戦しています。そんな前向きな姿に、中村さんは「並大抵の努力では、ここまでできないはず。根性は誰よりもある」と目を細めます。

 ■自分らしさ武器に

 結那さんは、学校や家でも頑張り屋です。聴覚が優れているからか、英語が得意。目が見えない人が歩くときに持つ白杖をつきながら、学校から1キロ離れた場所まで歩くことが今の目標です。紙に穴を開ける方法で点字を速く打てるよう、右手で点字を速く読めるよう、練習も欠かしません。

母の詩織さん(左)と紙に穴を開ける点字を練習する結那さん

 家では兄・斗和(とわ)君(11)に負けたくないと、自転車やキャスターボードも乗りこなせるようになりました。パラリンピック種目にあるスポーツも「やってみたい」。6歳の双子の弟・斗輝(とき)ちゃんと妹・桜那(さな)ちゃんとも仲良し。桜那ちゃんにはピアノを教える優しいお姉さんでもあります。

キャスターボードもスイスイと乗りこなします

 「なんでもやってあげないといけない、と思っていたけど、実際には1人でできるよう他のきょうだいより厳しくしてきた」と詩織さん。そのおかげで、結那さんは着替えなど自分のことはほぼ1人でできるし、料理だってできます。初めて会った子とも、すぐに友達になれます。

 「何で結那は目が見えないんだろう」と口にすることもありますが、音楽と出合い、挑戦する気持ちと、負けない心を持つことができました。“結那らしさ”を武器に、「みんなを喜ばせる歌手になりたい」と夢に向かって突き進んでいます。

 

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