政治への視線 2019参院選 長崎・2 <共生>障害者も社会支える

2019/07/10 [11:29] 公開

食堂を訪れる子どもたちのために調理するNPOスタッフと障害者=諫早市幸町

 6月8日夕、諫早市の障害者就労支援施設。運営するNPO法人会長の石橋亙(わたる)さん(62)は厨房(ちゅうぼう)で唐揚げを作っていた。この日スタートした「諫早未来食堂」に集まった子どもたちに食べてもらうためだ。そこに突然、この施設に通う50歳代の知的障害者の女性が現れた。
 女性は昼すぎ、ジャガイモの皮むき作業を終え、近くのアパートに帰ったはずだった。「これ使って」。差し出したのは二つのビニール袋。卵がそれぞれ10個ほど入っていた。まだ温かい、ゆで卵-。塩も添えられていた。
 「わざわざ作ってきてくれたんだね」。石橋さんは礼を言うと、胸に熱いものが込み上げてきた。スタッフに袋を手渡し、トイレで泣いた。
 諫早未来食堂は、保護者の帰宅が遅く、孤食になっている子どもたちを支援しようと石橋さんが発案。国が呼び掛ける「共生社会」につながるとの思いからだった。
 健常者らが働いて税金などを納め、障害者の就労支援や年金などの諸施策を支えている側面がある。だが「共生」とは、共に支え合うこと。施設利用の障害者に「将来、障害者を支えてくれる子どもたちが困っている。皆さんの賃金の『1%』を提供してほしい。食堂の食材費などに充てたい」と協力を求めた。「障害者も社会を支えられると実感してほしかった。ゆで卵をもらい、意図が十分伝わっていたんだと思って」と目を細める。
 だからこそ、中央省庁などで昨年発覚した障害者の雇用水増しが許せない。「障害者手帳を持っていない人を雇って障害者とカウントしていた。『共生』を求めている国や自治体が故意に障害者を締め出したように見えた。障害者が働いて社会を支えるための場を長年奪っていたんだ」
 障害者らマイノリティーとの「共生」を目指す雰囲気が社会に醸成される一方で、人々の心の中には偏見、差別といった負の感情が根強く残る。石橋さんらNPOスタッフが施設利用者のためにワンルームの住まいを借りようとしても、「障害者」というだけで断られることも少なくない。
 「障害者のことを知らないんだと思う。だから政治には、障害者が健常者と一緒に働く場をもっと提供してほしい。福祉関係者も、障害者が社会を支えていると思えることに取り組んでほしい」と訴える。
 諫早未来食堂でNPOスタッフと障害者が共に着るTシャツがある。その裾のハートマークの中にはこう記されている。「We are behind you(あなたの後ろにいるよ) 1%」。「1%」の誇りが、子どもたちを支える原動力になる。