認知症女性にわいせつ行為 介護に潜む“密室リスク” 有罪の元職員「ばれないと思った」

2019/06/01 [09:06] 公開

体の接触が避けられない介護現場。施設利用者と職員が二人きりになる状況も多い(写真はイメージ)

 介護施設のデイサービスを利用していた認知症の女性=当時(55)=を車で送った後、玄関でわいせつ行為をしたとして準強制わいせつ罪に問われた元施設職員の男(37)に長崎地裁は14日、有罪判決を言い渡した。職務上の立場を利用した悪質な犯行に、介護関係者からは怒りと同時に介護現場に潜む“密室リスク”を指摘する声が上がった。

 事件が起きたのは2017年11月。判決などによると、女性を送った際、玄関で女性に抱きついたり、着衣の上から胸を触ったり、1分ほどわいせつ行為をした。男は当時、理学療法士として勤務し、女性の認知症の症状を把握できる立場。公判では「ばれないと思った」と語った。

 小松本卓裁判官は「同罪の実行行為の中では比較的軽微であることを考慮しても、犯行形態は軽いものと言えない」と批判。懲役1年6月、執行猶予4年の有罪判決を下した。

 ■第三者の目

 今回の事件は「異性」が「二人きり」という状況で起こった。長崎県内のある介護施設関係者は「介護現場では異性で二人きりになる状況はいくらでもある」と指摘する。誤解を招かないよう、同性介護の徹底が考えられるが、入浴介助など男手が求められる力仕事も少なくないという。この関係者は「人手不足もあり、同性介護の徹底は現実的ではない」と打ち明ける。

 長崎県の調査によると、2017年度、介護施設職員から虐待を受けた人数は17人。身体的虐待が9人と最多で、性的虐待は1人だった。

 「特に認知症患者は妄想の症状もあり、被害を訴えても信じてもらえない場合もある。表に出ていない被害はもっとある」。そう推測するのは、日本認知症グループホーム協会の白仁田敏史県支部長。介護の仕事は体の接触が避けられないとし、「当人の感じ方次第で『適切』の線引きが難しい場面が多い。専門家の間では『異性介護』自体が虐待という考えもある」と対応の難しさを口にする。

 日本高齢者虐待防止学会理事の岸恵美子・東邦大教授は「異性、同性問わず、虐待の多くは“密室状態”で起きるため、第三者の目の届くところで介護したり、チームで対応したりと密室リスクの回避に向けて取り組んでいる」と業界の方向性を説明。異性介護になる場合、家族から事前に了承を得るといった情報共有の大切さも強調する。

 岸教授は「職員に何が虐待に当たるかを学ばせるだけでなく、介護中のストレス発散法や感情のコントロール法の研修に力を入れる必要がある」としている。

 ■職員も守る

 一方、今回の事件とは逆のケースで、利用者による職員へのセクハラなども社会問題化。厚生労働省が2月に実施した委託調査では、訪問介護職員の半数が利用者からセクハラや身体・精神的暴力を受けた経験があるという実態も浮かび上がった。

 高齢者虐待防止法には、介護する家族の心労の軽減策も含まれるが、介護職員に対する支援は盛り込まれていない。岸教授は「職員は『プロだから対応できて当たり前』とみられ、被害を受けても泣き寝入りしていることが多い。利用者への虐待防止に取り組むと同時に、職員を守る方策も議論していかなければならない」と話す。

 


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