「語らん場」自主活動に発展 助け合える諫早へ 進むケアシステム構築

2019/05/23 [10:30] 公開

4町の住民が交流する四ケ町シニアサロン=諫早市栄町、栄町公民館

 諫早市は団塊の世代が75歳以上になる2025年度をめどに、医療と介護、福祉を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築を進めている。その一環で3年前から始まった「介護予防と生活支援の語らん場」をきっかけに、健康体操教室やサロンなど地域の実情に合った高齢者の自主活動が市内各地で誕生。助け合える地域への模索が続く。

 10日、中尾町公民館で開かれた初の健康体操体験会。「無理せず、自分のペースで。でも楽をせず、あきらめないで」。東洋体操を教える同町の加藤ケイ子さん(80)が励ます。参加した70~80代の約20人が、腕や足の筋肉を伸ばす動きを繰り返した。
 65歳以上の高齢化率が4割を超す同町は昨年12月、「語らん場」を発展させる形で、介護予防生活支援協議会を設立。自宅でもできる運動を生活のリズムに組み込んでもらおうと、介護予防に乗り出した。参加した古川幾雄さん(79)は「若い時の身体と思っていたが、予想以上に動かないことが発見できてよかった」と話した。今後も月2回、体操教室を開く。
 市中心部アーケード近くの上町、栄町、八坂町、東小路町の4町が1月から始めたのが「四ケ町シニアサロン」。人口が減る一方、1人暮らしが多いという共通の悩みがある。「語ってばかりでなく、動かんば、というのがスタート。近い町同士、顔の見える関係になり、災害時に助け合える地域にしたい」。八坂町自治会の古賀文朗会長(79)は説明する。4町は現在、災害を想定した事前行動計画「タイムライン」も検討、災害対策と連動した町づくりに動いている。
 市南部の飯盛町では昨年9月、「語らん場」を先取りする形で「地域共生助け合い隊」が発足。草刈りや子どもの見守りなど有償(1時間500円)のボランティアだが、自家用車を使う支援の在り方や広報、依頼を受ける拠点など複数の課題が浮かび上がっている。「行政だけではできない課題を民間の力で補完しようとする前例のない活動。行政と民間の新たな協働事業にしたい」。藤本八重子代表(69)は、介護や生活支援を含めた地域づくりを手探りで進める。
 このほかにも小規模な集まりを計画している地区が増加。市高齢介護課は「『語らん場』から地域の人材や情報が有機的に結び付いている」としている。

自宅でもできる体操を身に付けてもらおうと開いた健康体操体験会=諫早市、中尾町公民館

◎すべての人支える“包摂”に 「公助」「自助」だけでは限界

 全国の自治体が地域包括ケアシステム構築を進める背景は、少子高齢化に伴う介護職などの人材不足や介護保険の給付費増が予想されるためだ。これらの課題克服に向けて、諫早市の場合、「介護予防と生活支援の語らん場」で地域ごとの課題や特徴を把握し、高齢者が住み慣れた地域で助け合って暮らす仕組みづくりを考えている。
 同市の高齢化率は2020年度、30%に達する見通し。65歳以上の介護保険被保険者に占める要介護認定者率(要支援含む)は17年度末、18.2%(7126人)。3年ごとに改定される介護保険料の基準月額は18~20年度、5970円で、15~17年度より800円増えた。介護保険の標準給付費も18~20年度、349億円と推計され、いずれも右肩上がりが続く。
 「行政サービスなどの『公助』と市民自身で解決する『自助』には限界があり、二つの間に助け合いという市民の『助け合い』(共助)が重要」。地域包括ケアシステム構築に必要な視点について、長崎ウエスレヤン大の岩永秀徳教授(地域福祉、NPOボランティア)はこう語り、「支える側」と「支えられる側」の上下関係でなく、「支えられる側もともにある」という発想の転換を促す。
 「地域には『助けて』と言える『受援力』が必要。『見守ってくれている』という安心感と『元気に暮らしている』という発信が、相互にできる『縁側』が生活圏内に必要」とし、「語らん場」を発展させた自主活動に期待を寄せる。
 「独居や高齢者夫婦、認知症、ひとり親世帯、子育て世帯など孤立している人が多く存在する。『語らん場』に来ない人は、支援の手からこぼれ落ちてしまう可能性がある」とし、幅広い世代を包含する「包摂(ほうせつ)」のシステムに発展させる必要性を指摘する。
 その上で、岩永教授は「語らん場」で模索する「支え合い」活動を公的計画内に規定し、活動の基盤整備推進を求める。「財政難を背景にした『公助』の補完とせず、市民に地域共生社会の理念を説き、主体的な活動を支援してほしい。だれもが毎日集える『縁側』で、住民それぞれができることを考え、多様な企業などと協働することで、発想がさらに広がる」。高齢者に限らず、幅広い「市民力」の活用を提案する。

◎諫早市の地域包括ケアシステムと「語らん場」

 市は2015年度、市地域包括ケア推進協議会を設け、医療、介護、福祉の各サービスを中学校校区単位で一体的に提供できる仕組みの検討に入った。同協議会内に在宅医療介護連携、認知症対策、介護予防・日常生活支援の各推進会議を設置。介護予防と生活支援を考える「語らん場」は16年度から始まり、18年度までに市内全19カ所(20校区)で開催している。