乗馬療法 障害者6人「卒業」 ながさきゆうゆう牧場

2019/03/24 [00:28] 公開

 乗馬療法を通じて、障害がある子どもたちの成長を支援する長崎市宮崎町の「ながさきゆうゆう牧場ホーシーセンター」。2010年の開所時は利用者は数人だったが、今では障害福祉事業の放課後デイサービスとして約90人が通所している。特別支援学校高等部を卒業する6人の門出を祝う「卒業イベント」がこのほどあった。
 長崎市中心部から南に車で約30分。街の騒々しさを忘れさせる憩いの空間がある。天草灘が眼前に広がり、聞こえるのは鳥のさえずり、さざ波の音。豊かな自然の中、子どもたちはスタッフに補助してもらいながら馬にまたがり、手綱を引く。馬と呼吸を合わせ、一歩一歩、バランスを取りながら進んでいく。
 乗馬療法は欧米諸国で盛んで、馬のリズミカルな揺れが人間の脳や体を刺激し多様な効果が得られるとされる。牧場代表で内科と小児科の医師、松尾美代さん(69)は「馬は人間より体温が約1度高く、触れ合うことで気持ちが落ち着く。さらに馬を操る動作と、自分の体勢を支える動作を同時にすることで体の使い方を覚え、体の可動域を広げる効果がある」と説明する。
 松尾さんが乗馬療法と出合ったきっかけは、長男悠さん(38)の存在だった。幼少時のけがが原因で右半身に障害を抱える悠さんは、中学時代いじめに遭い、口数も減って心を閉ざしかけていた。高校卒業後、社会福祉法人南高愛隣会の雲仙市内にある乗馬施設に出合った。最初は恐る恐る馬にまたがっていた悠さん。慣れてくると自然に笑みがこぼれた。久々に息子の笑顔を見た松尾さんは「乗馬はこんなにもいいんだ」と直感したという。一人でも多くの人に乗馬療法を知ってもらいたいと、牧場の開設を決意した。
 その後、松尾さんは米国コロラド州の乗馬療法センターを訪問。最先端のセラピー法を学び、05年に牧場をオープンした。5年後に障害福祉事業の放課後デイサービスの一種として運営を開始。現在、理学療法士や看護師などの資格を持つスタッフ約20人が勤務する。身体、知的、発達に障害がある小学低学年から高校生が、平日の放課後や土日を利用して1日数時間通っている。
 今月、特別支援学校高等部を巣立つ利用者の卒業イベントが牧場であった。保護者や施設関係者が見守る中、6人は乗馬を発表し「皆さんに今後、良い報告ができるよう頑張る」とあいさつした。
 身体、知的障害などがある高橋照太郎さん(18)の父、芳則さん(57)は「乗馬の効果は大きかった。少しずつ、自分の意志を伝えるように変わってきたと思う」と話し、息子の成長に目を細めた。
 松尾さんは「乗馬を通して、目に見えて変わった子どもは多い。今後つらいときがあっても、ここでの時間を忘れずに頑張ってほしい」とエールを送った。

家族らが見守る中で乗馬を発表する卒業生たち=長崎市、ながさきゆうゆう牧場ホーシーセンター
卒業生から記念の花を受け取る松尾さん(右)