<再生への視点 統一地方選を前に>・13 島原市区 溶岩ドームの監視体制 工事完了後に“閉鎖”も 災害の記憶 風化懸念

2019/03/07 [16:20] 公開

 「異常があれば、望遠レンズや目視でも直接確認します」。島原市とは市境の南島原市側にある大野木場砂防みらい館監視室。多様な機器やモニターを示しながら、国土交通省雲仙復興事務所(島原市南下川尻町)の担当者が説明してくれた。監視室からは、雲仙・普賢岳の噴火活動で形成された溶岩ドームや、市境の水無川流域での砂防工事現場が一望できる。
 普賢岳山頂付近に不安定な状態で堆積した溶岩ドームは、約1億立方メートル(福岡ドーム53杯分)と推定され、噴火活動終息後の1997年以降、一部が1メートル以上、島原市側に沈降。小規模崩落も続く。こうした中、同事務所は砂防工事と並行し、光の反射で溶岩ドームの動きを把握する光波測距観測器や、地盤振動を検知するセンサーなど専門機器を使った24時間体制で溶岩ドーム崩壊や土石流に備えた監視に当たっている。
 異常が検知された場合は、県や島原半島3市の防災担当者にも知らせる仕組みを構築。こうした情報は、自治体が住民を避難させる判断材料の一つになる。
 砂防、監視で重要な役割を担う同事務所だが、噴火災害最中の93年から進めてきた工事は昨年3月、砂防えん堤のかさ上げが完了。残すは一部工事のみで、2021年度以降は工事の事業計画がない。島原半島3市などは従来、本省などに同事務所存続の要望を重ねているが、工事完了に伴い、“閉鎖”という懸念が現実味を帯びつつある。
 県は人的、技術面から、監視業務を国から引き継ぐことは困難とし、「観測の専門知識を持つ技術者の駐在は必要」と強調。島原市の古川隆三郎市長も「溶岩ドーム大規模崩壊の可能性がないとはいえない。存続以外の選択肢は市として想定していない」として引き続き、本省などに働き掛けていく構えだ。これに対し、国側は「まだ何も決まっていない」(同事務所)と方針を明確にしておらず、工事完了後の監視体制のあり方などが今後の大きな課題となる。
 課題はそれだけではない。普賢岳噴火活動の終息宣言から20年以上が経過し、44人の犠牲者を出した噴火災害を知らない世代が増えている。災害の教訓をどう次世代に継承し、新たな災害に備えるか。「住民も自分の身は自分で守りつつ、行政と力を合わせ、災害に強いまちづくりに頑張っていくしかない」。噴火災害の記憶の風化が懸念される中、国や市など関係機関の協力を得ながら、自主的な住民避難訓練に取り組んでいる島原市安中地区町内会連絡協議会の阿南達也会長(80)は、そう力を込める。

溶岩ドームの監視室=南島原市、大野木場砂防みらい館