祖父母のまちで靴職人の夢 人の温かさに触れ、やりがい

2019/03/07 [11:05] 公開

 佐世保市民の台所、戸尾市場の一角に「金崎靴修理屋」(松川町)がある。店主の金崎智之さん(32)はIターン者。祖父母が暮らしたまちに夫婦で移り住み、約3年半。人の温かさや仕事のやりがいに満たされ、日々を過ごしている。
 20平方メートル余りの店内には、修理を待つハイヒールや紳士靴が並ぶ。作業を終えた靴は袋に入り、壁際に掛けられている。2015年9月に上京町にオープン。昨年9月に現在地に移った。かかとのゴムやヒールの交換に加え、靴磨き、バッグや財布の修理も手掛ける。
 金崎さんは福岡市出身。高校を卒業後、専門学校を経て、靴の修理工場に就職した。幼いころから物作りが好きで、靴職人になるのが夢だった。福岡で2年ほど働き東京に転勤。休日を使い、靴作り教室に通うようになった。
 約2年間学んだ24歳のころ、仕事を辞め、単身イタリアへ。工房で働きながら、理想とする靴を作っていた工房で働くため、サンプル作りに励んだ。
 半年ほど過ぎ、憧れの工房の門をたたいた。店主に手作りの靴を見せると、デザインや仕上げの甘さなど、容赦ないダメ出しを食らった。作り直しを重ねること約半年。「1足作ってみるか」と認められ、憧れの場所で働き始めた。
 しかし、母親が病に倒れたため2年半で帰国。母親は亡くなり、両親が住むはずだった佐世保にある母方の祖父母宅が残った。
 ちょうど独立を模索していた。佐世保に需要はあるのか悩んだ。しかし、祖母が生前、「靴の修理屋が少ない」と嘆いていた姿が浮かび、決心した。妻の恵さん(32)にとっては、縁もゆかりもない土地。「それでも独立できる期待のほうが大きかった」と夫の背中を押した。
 夫婦は「佐世保の人は温かい」と口をそろえる。近くの店主らは、困り事がないかと頻繁に声を掛けてくれ、宣伝もしてくれた。口コミで広がり、今では市外からも客が訪れるようになった。「リピーターをはじめ、地元の人やお客さんの紹介で、人とのつながりが広がっていくのがうれしい」と笑う。
 4月からはオーダー靴の注文も受け付け、長年の夢だった靴作りを本格化させる。「佐世保で骨をうずめる覚悟です」

人の温かさや仕事のやりがいを感じながら店を営む金崎さん夫妻=佐世保市、金崎靴修理屋