<再生への視点 統一地方選を前に>・6 西海市区 地域医療 救急搬送 対策が急務 時間短縮へ協議本格化

2019/02/26 [11:32] 公開

 時間がこれほど長く感じたことはなかった。昨年10月、西海市西彼町。夕方5時すぎ、住民の60代女性は、高熱に苦しむ義母のそばで救急車の到着を焦る思いで待っていた。119番から救急車到着まで20分超。長崎市中心部の救急告示病院(救急病院)が受け入れてくれたが、そこまでにさらに40分以上を要した。診断は尿路感染症と誤嚥(ごえん)性肺炎。「心臓発作や脳梗塞を夜に発症したら…」。女性の不安は消えない。
 西海市は佐世保市に消防・救急業務を委託している。最寄りの消防出張所から女性宅まで約20キロ。長崎市消防局の最寄り出張所からだと半分の距離だが、「日常の運用では区域外に出動できない」(県消防保安室)。
 県によると、24時間態勢の救急告示医療機関は県内に60カ所で、半数が長崎、佐世保両市に集中。西海市内にはなく、「佐世保、長崎などに搬送する場合は時間がかかる」(佐世保市消防局)という。119番から医療機関到着までの所要時間は、佐世保市消防局管内(2市5町)で平均38分30秒(2018年)だった。ドクターヘリも活躍するが、悪天候時や夜間の運用はできない。
 救急告示医療機関の整備について、市内の医療関係者は、「仮に24時間態勢で医師が確保できたとしても、(人口が少ない西海市では)赤字前提の運営になる」と指摘。市も「(24時間対応できるような)新たな公立医療機関の設置は財政的に困難」との立場だ。
 「救急搬送の時間は西海市の一番の医療の課題」。杉澤泰彦市長は昨年6月の定例市議会で、こう強調した。市長は「急性心筋梗塞の死亡率が非常に西海市が高い。(救急車到着から)病院まで30分以内で到達できない地域があることが原因と専門の先生からも聞いた」とし、対策が急務との認識を示す。
 本県の高齢化率(18年1月)は30.78%と都道府県で14番目に高いが、西海市はこれをさらに上回る36.48%。国立社会保障・人口問題研究所の推計では40年には44%に達するとみられている。
 高齢化、人口減が進む中、市は地域医療を維持する方策を練るため、昨年8月、有識者らで構成する市医療検討委員会を設置した。県もオブザーバーで参加。救急搬送時間の短縮についても初めて本格的に話し合っていく。「自治体単独での解決は難しく、時間短縮の方策を佐世保市などと協議したい」と西海市。住民の命、安心をどう守るか。協議は緒に就いたばかりだ。

長崎までの距離を示した表示板。救急搬送時間をどう短縮するかが課題の一つだ=西海市西彼町