外反母趾(がいはんぼし)とは足の親指の先が人さし指の方に曲がることで、かかとの高い靴を愛用すると、かかりやすいという。以前、目にして書き留めておいた五行歌がある。〈外反母趾の老女の足を/丁寧に洗えば/「ダンスしてたの 若い頃」/車椅子の上から/秘密がポツリ漏らされる〉清水ふみ▲作者は介護のお仕事なのだろう。心を込めて洗えばこそ、曲がった指の秘密も漏れる。介護とは心も休みなく働かせる仕事であると、しみじみ思う▲介護や介助の現場で痛ましい事件があれば、この五行歌を思い出す。大阪市の特別養護老人ホームで、半身まひのある70代の男性が入浴介助で高温のお湯に入れられ、大やけどを負って死亡した。介護福祉士の男(38)が逮捕されたが過失を主張している▲高温の湯は出ないようにしてあるが、男はわざわざ設定を変え、高温にしていた。何を過失と言うのか▲東京都町田市では高齢の女性が突然、刺されて死亡した。女性とは面識がないという男(40)が逮捕されたが「誰でもよかった」という供述を、ほかのむごい事件で何度見聞きしただろう▲小さな秘密、喜怒哀楽の記憶、多くのご苦労が詰まった命が、一片の慈しみもなく奪われる。誰でもいいわけがない。かけがえのない、二つとない、代わりがないのが命だろう。(徹)
かけがえのない命
長崎新聞 2025/10/03 [09:45] 公開
