長崎県五島列島の最北、宇久島と寺島で構成される旧北松宇久町が佐世保市と合併して3月31日で20年。島では国内最大規模の太陽光発電所(メガソーラー)の建設が進む。合併後も人口減と少子高齢化に悩む島は「存続への最後の一手」と発電所事業に期待を寄せるが、災害への懸念などから一部の島民が工事の差し止めを求めているほか、全国的にも環境面を憂慮する声が出ている。島の今を追った。
■存亡
「合併の判断は間違っていなかった」。旧宇久町最後の町長、田中文明=旧名・稔=さん(84)は話す。最盛期に約1万2千人いた人口は合併前、約3千人に縮み、財政難や医療体制の維持などに悩まされていた。
「単独の町のままでは不可能だったとみられる水道管の修繕ができ、社会福祉も維持できた。合併の恩恵は目に見えづらいが、生活基盤が確保されたことは恩恵の一つ」と強調する。
一方、田中元町長の予想を超えて島の人口は急降下した。今年2月の宇久町の推計人口は1600人を下回る。2020年の国勢調査では高齢化率58・3%と市の平均31・8%に比べかなり高かった。
宇久島の南西にある離島の北松小値賀町。合併せずに単独の町としての道を選び、観光振興などに力を入れてきた。今年2月の人口は2千人余り。20年前は宇久も小値賀も同数程度で、小値賀の方が減少幅は小さい。同調査による高齢化率も50・7%だった。島民男性(65)は「宇久も単独で生き残れたのではないか」とこぼす。
■振興
15年前に起きた東日本大震災と東京電力福島第1原発事故は、脱原発の機運を一気に高めた。国は再生可能エネルギーを固定価格で買い取る制度(FIT)を導入し、これに後押しされてメガソーラーが普及。再興の決定打となる事業が見つからない中、島民有志は活性化の切り札とみて誘致に動いた。
紆余(うよ)曲折を経て、クラフティア(旧九電工、福岡市)などが出資する発電事業会社「宇久島みらいエネルギー合同会社」が24年6月、本格着工にこぎ着ける。田中元町長は誘致から推進してきた1人。同社が支出した基金を活用して地域振興策に取り組む一般社団法人「うくみらい」顧問も務める。「島に持続可能な経済効果が生まれ、振興につながる」と話す。
JAながさき西海の宇久地区和牛部会、鳥山幸喜部会長(64)は事業を歓迎する。同社は、畜産農家が購入する輸入牧草の費用を補助しているほか、一部の太陽光パネルを通常より高い位置に設置し、営農型とした。その下の敷地で牧草が栽培され、農家へ安く販売される仕組みという。
漁業関係者にも、燃料費補助や製氷機の設置などを実施。宇久小値賀漁業協同組合の菅正幸宇久支所長(62)は「漁協も漁師も助かっている」と“恩恵”を前向きに受け止める。
クラフティアの木下大執行役員は「島民の理解を得られれば、かなりの期間、太陽光事業を続けられる」と、島民とともに事業を進める考えを示す。
■浮沈
メガソーラー建設を巡っては、北海道・釧路湿原国立公園周辺での計画で環境破壊を危惧して反対の声が強まるなど、全国的に逆風が吹いている。島の1割に達する約280ヘクタール分の太陽光パネルが設置される宇久の事業についても、複数の批判的投稿が交流サイト(SNS)にアップされ、中には数万を超す「いいね」を集める。「島のイメージが悪くなるのでは」との不安は推進派の中にもある。
事業に反対するNPO法人「宇久島の生活を守る会」の佐々木浄榮会長(46)は「合併そのものが間違いだった」と主張する。島では別の事業者による大規模な風力発電事業の計画も進められている。「市は、電気を生み出すだけの島にしている。“植民地”のようだ」と批判する。
佐々木会長ら島民4人は昨年12月、水害の危険性が高まるなどとして、工事差し止めを求める仮処分を長崎地裁佐世保支部に申し立てた。
島に住む女性(60)は「島民は大小の差はあれ、事業者に経済的にお世話になっている。でも、お世話になればなるほど、反対と言えなくなる。民間企業が将来にわたって島の未来に責任を持ち続けてくれるのだろうか」と複雑な胸の内を明かす。
島の“浮沈”を握る未曽有のメガソーラー事業。島民は期待と不安をない交ぜにして行方を見守っている。
■存亡
「合併の判断は間違っていなかった」。旧宇久町最後の町長、田中文明=旧名・稔=さん(84)は話す。最盛期に約1万2千人いた人口は合併前、約3千人に縮み、財政難や医療体制の維持などに悩まされていた。
「単独の町のままでは不可能だったとみられる水道管の修繕ができ、社会福祉も維持できた。合併の恩恵は目に見えづらいが、生活基盤が確保されたことは恩恵の一つ」と強調する。
一方、田中元町長の予想を超えて島の人口は急降下した。今年2月の宇久町の推計人口は1600人を下回る。2020年の国勢調査では高齢化率58・3%と市の平均31・8%に比べかなり高かった。
宇久島の南西にある離島の北松小値賀町。合併せずに単独の町としての道を選び、観光振興などに力を入れてきた。今年2月の人口は2千人余り。20年前は宇久も小値賀も同数程度で、小値賀の方が減少幅は小さい。同調査による高齢化率も50・7%だった。島民男性(65)は「宇久も単独で生き残れたのではないか」とこぼす。
■振興
15年前に起きた東日本大震災と東京電力福島第1原発事故は、脱原発の機運を一気に高めた。国は再生可能エネルギーを固定価格で買い取る制度(FIT)を導入し、これに後押しされてメガソーラーが普及。再興の決定打となる事業が見つからない中、島民有志は活性化の切り札とみて誘致に動いた。
紆余(うよ)曲折を経て、クラフティア(旧九電工、福岡市)などが出資する発電事業会社「宇久島みらいエネルギー合同会社」が24年6月、本格着工にこぎ着ける。田中元町長は誘致から推進してきた1人。同社が支出した基金を活用して地域振興策に取り組む一般社団法人「うくみらい」顧問も務める。「島に持続可能な経済効果が生まれ、振興につながる」と話す。
JAながさき西海の宇久地区和牛部会、鳥山幸喜部会長(64)は事業を歓迎する。同社は、畜産農家が購入する輸入牧草の費用を補助しているほか、一部の太陽光パネルを通常より高い位置に設置し、営農型とした。その下の敷地で牧草が栽培され、農家へ安く販売される仕組みという。
漁業関係者にも、燃料費補助や製氷機の設置などを実施。宇久小値賀漁業協同組合の菅正幸宇久支所長(62)は「漁協も漁師も助かっている」と“恩恵”を前向きに受け止める。
クラフティアの木下大執行役員は「島民の理解を得られれば、かなりの期間、太陽光事業を続けられる」と、島民とともに事業を進める考えを示す。
■浮沈
メガソーラー建設を巡っては、北海道・釧路湿原国立公園周辺での計画で環境破壊を危惧して反対の声が強まるなど、全国的に逆風が吹いている。島の1割に達する約280ヘクタール分の太陽光パネルが設置される宇久の事業についても、複数の批判的投稿が交流サイト(SNS)にアップされ、中には数万を超す「いいね」を集める。「島のイメージが悪くなるのでは」との不安は推進派の中にもある。
事業に反対するNPO法人「宇久島の生活を守る会」の佐々木浄榮会長(46)は「合併そのものが間違いだった」と主張する。島では別の事業者による大規模な風力発電事業の計画も進められている。「市は、電気を生み出すだけの島にしている。“植民地”のようだ」と批判する。
佐々木会長ら島民4人は昨年12月、水害の危険性が高まるなどとして、工事差し止めを求める仮処分を長崎地裁佐世保支部に申し立てた。
島に住む女性(60)は「島民は大小の差はあれ、事業者に経済的にお世話になっている。でも、お世話になればなるほど、反対と言えなくなる。民間企業が将来にわたって島の未来に責任を持ち続けてくれるのだろうか」と複雑な胸の内を明かす。
島の“浮沈”を握る未曽有のメガソーラー事業。島民は期待と不安をない交ぜにして行方を見守っている。





