壱岐の伝統工芸「鬼凧」 祖父母の技 受け継ぐ

2019/01/12 [16:00] 公開

 武者「百合若大臣」と鬼の首領「悪毒王」の決闘を描いた壱岐市の伝統工芸品「鬼凧(おんだこ)」。福岡市で暮らす斉藤あゆみさん(26)は、半世紀にわたってたこづくりを続ける祖父母の技を受け継ごうと、時間を見つけては島へ足を運んでいる。
 壱岐市芦辺町にある工房。斉藤さんは裏山から切り出した竹で作った骨組みに和紙を貼り、墨で形を描いていく。赤、橙(だいだい)、黄、緑。4色の食紅を使い分け、切り飛ばされた鬼の首が武者のかぶとをかみ砕こうとする勇壮な姿を、浮かび上がらせていく。
 自分の仕事に納得がいかないと、傍らで黙々と働く祖母、平尾フクヨさん(85)を見る。筆の動き、力の入れ具合。全てがお手本だ。
 フクヨさんと夫の明丈さん(90)は二人三脚で鬼凧づくりを続けてきた。ところが昨年1月、明丈さんが草刈り中にけが。「もうやめようか」と弱気になった。大好きな祖父母に元気を出してもらいたい。斉藤さんは「手伝うから、まだ頑張ろう」と説得。会社勤めをしながら、福岡と島を行き来する生活が始まった。
 鬼凧の良しあしは顔などを描く墨入れで決まる。「祖父のたこに比べ私のは少し優しい。もっと近づきたい」
 最近、うれしいこともあった。明丈さんの体調がいい時は、斉藤さんを指導できるまでに回復したからだ。
 「目は最後に描くとぞ」。明丈さんのアドバイスを受け、筆を握る斉藤さん。「顔がしっかりしてきた。おじいちゃんの雰囲気に似てきた」とフクヨさんも目を細める。
 1年か2年先、斉藤さんは島へ戻るつもりだ。壱岐の伝統と祖父母の宝物。しっかり受け継いでいく。

◎メモ/鬼凧

 家内安全・無病息災の魔よけとして、島の家々に飾られている。1993年に県知事指定伝統的工芸品に選ばれた。職人は十数年前まで島に数人いたが、現在は平尾さん夫妻と斉藤さんだけ。

鬼凧に色を付ける作業をする斉藤あゆみさん(左)と祖母の平尾フクヨさん=壱岐市芦辺町
鬼凧に絵付けをする斉藤さん