[1]評価を得た「端島炭坑」

本県から4候補  保存管理など“宿題”も


 九州・山口6県11市が提案した「九州・山口の近代化産業遺産群−非西洋世界における近代化の先駆け」が1月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産暫定リストに掲載され、資産構成の検討など本登録に向けた作業が進められている。日本の近代化の礎を築いた九州・山口の歴史を物語る貴重な産業遺産。長崎市高島町端島(通称・軍艦島)の「端島炭坑」など県内の構成資産候補を中心にその価値や世界遺産登録に向けた歩みを紹介する。

暫定リスト
世界遺産への旅 九州・山口の近代化産業遺産群

 「九州・山口−」は江戸幕府や西南雄藩などによって19世紀半ばから20世紀初めに造られた産業遺産で構成。非西洋地域で初めて実現した近代工業化の過程を示す。暫定リスト掲載時の構成資産は、薩摩藩の工場群跡「旧集成館」(鹿児島市)など山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島の6県11市の計22件。

 (1)自力による近代化(2)積極的な技術導入(3)国内外の石炭需要への対応(4)重工業化への転換−の四つの柱で構成。本県からは「端島炭坑」、日本初の洋式近代的ドック「小菅修船場跡」、日本の近代化に貢献した英国人貿易商トーマス・グラバーの住宅「旧グラバー住宅」、日本初の洋式炭坑の坑口「北渓井坑(ほっけいせいこう)跡」(いずれも長崎市)の4件を含む。

 国内で幕末から昭和初期にかけて造られた「近代化遺産」が注目され始めたのは約20年前。土地開発の進展などで消滅の危機にさらされている近代の文化遺産を保護しようと、国は1996年に文化財保護法を一部改正。築50年を経過した建造物などに緩やかな保護措置を講じる文化財登録制度を導入した。

 全国的な調査も推進され、本県では95年度からの3カ年、県教委が「県近代化遺産(建造物等)総合調査事業」を実施。その後民間レベルでも関心が高まり、観光資源としても注目を浴びるようになる。こうした流れの中、九州地方知事会は2006年、「九州近代化産業遺産」の保存・活用に取り組むことに合意。国が世界遺産候補の公募を開始したことを受け、登録に向けて動きだした。

 当初の提案は継続審議となったが、コンセプトの明確化など見直しを進め、07年12月に再提案。国は昨年9月、暫定リスト掲載の方針を決め、今年1月に掲載された。6県11市は世界遺産登録推進協議会(会長=伊藤祐一郎・鹿児島県知事)を発足させ、ユネスコの登録基準に照らした資産構成などを検討するため、国内外の専門家でつくる専門家委員会を設置した。

 専門家委のメンバーは1月から4月にかけ、6県の資産候補を視察。4月に県内を訪れたメンバーは端島炭坑と小菅修船場跡について「世界遺産としての要件は満たしている」などと評価。一方で今後の保存管理のあり方の検討など“宿題”も残し、旧グラバー住宅と北渓井坑跡については「真実性」「完全性」を証明するためのさらなる調査の必要性を説いた。

 このほか佐賀藩が築いた大砲台場「四郎ケ島台場跡」(長崎市)や同藩の海軍学校「三重津海軍所跡」(佐賀市)なども追加候補として検討されている。8月6日に開かれた推進協の総会では新たに佐賀市の加入も了承し、構成自治体は6県12市になった。

 専門家委は10月ごろに開く会合で資産構成の大枠などをまとめた提言書を推進協に提出する見通し。本登録に向けては、遺産の価値を証明する推薦書作成、日本政府によるユネスコへの推薦、現地調査を経て、ユネスコ世界遺産委員会が審議する。推進協は11年中に推薦書の素案作成に着手したい考えだ。

 県世界遺産登録推進室の嶋田孝弘室長は「九州・山口という枠組みでの価値の証明や今後の保存管理など課題は多いが、日本の近代化に長崎が重要な役割を果たしたことを県民の皆さんに知ってもらう絶好の機会にもなる。長崎市など関係自治体や団体と連携し進めていきたい」と話した。

文・蓑川裕之


インタビュー/岡林 隆敏さん 近代化遺産に詳しい長崎大工学部教授

“影の部分”の理解重要

岡林 隆敏さん
 長年、近代化遺産を研究し、県の総合調査事業主任調査委員も務めた長崎大工学部教授の岡林隆敏さん(62)に話を聞いた。

 −「九州・山口の近代化産業遺産群」の価値とは。

 九州では幕末から明治初期にかけ、薩摩や佐賀藩などが海外から近代的な技術を積極的に取り入れ、開国後に長崎を訪れた外国人貿易商らと石炭や造船産業の礎を築いていった。日本の重工業化、近代化の原点は九州にある。日本は非西洋地域の中で初めて、かつ短期間で近代化を成し遂げたが、西洋から遠く離れた極東の地でそういうことが起こったことは世界史的に見てもまれなことだ。

 −世界遺産を目指す意義は。

 今まで光が当たっていなかった近代の構造物に注目をし、近代化とは何なのかということを日本国内、県内で十分検証した上で、日本がアジアの中でいち早く近代化した過程や史実そのものを世界に知らしめるというところではないか。

 −本登録に向けた課題は。

 登録には構成資産が国の重要文化財などに指定されることが条件となる。歴史的基盤を正確に調べ、定着させていくことが今後の大きな課題。「九州・山口−」には影の部分と光の部分がある。光の部分が構造物。影の部分、骨身を削って働き、現代日本をつくってきた私たちの祖先や先輩をどう評価するか、というところに意味がある。近代化遺産とは何なのかということを行政も市民も正しく理解することが重要だ。

2009年8月22日長崎新聞掲載







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