(2)旧五輪教会堂と江上天主堂

   過疎地では課題山積み


江上天主堂

木々に囲まれて立つ江上天主堂。信者との合意形成は大きな課題=五島市奈留島
旧五輪教会堂

へき地の静かな海辺にある旧五輪教会堂。維持管理や受け入れ、ルート整備が課題=五島市久賀島
世界遺産への道 課題編・教会群とキリスト教遺産

 世界遺産暫定リスト入りした「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、行政主導で本登録に向けた取り組みが進められ、観光振興も期待されている。しかし、過疎地域では数々の課題がある。構成資産候補となっている五島市の旧五輪教会堂と江上天主堂は地元信者が少なく、教会の維持管理や受け入れに不安があり、信者らとの登録推進の合意形成も十分ではない。現状を探ると検討すべきことが見えてくる。

▼複雑な心情

 旧五輪教会堂はヤブツバキが豊かな五島市久賀島の東部にある。車では直接行けず、徒歩で山道を下りた海辺に立つ。

 地元信者は3世帯。「ばたばたしてきてなあ」。信者の男性(67)は苦笑いを浮かべ教会を仰いだ。近年はPRされて来訪者が増え、人が問い合わせで自宅敷地に入ってくることも。その都度、応対せざるを得ない。「世界遺産を悪かとは言わんが地元は大変よ」と複雑な心情をにじませた。

 旧五輪教会堂は市有施設だが、市はへき地のため信者に巡視業務を委嘱している。教会、トイレの清掃、草刈りは信者が自主的にするのが現状。将来を見据えると、日常的な管理をどうするのか不透明だ。

 久賀島は過疎化が著しく、8月末の人口は476人。高齢化率は54%に上り、島民の受け入れ態勢などに限界はある。宿泊施設は1カ所で飲食店はない。島の女性(61)は「島に利益が生まれる仕組みづくりを」と痛切に訴えている。

 市は、世界遺産登録に向け久賀島などが国から「重要文化的景観」に選定されるのをにらむ。だが、島民には道路や建物の開発が規制されないかとの不安がくすぶる。一方、教会に行く途中、離合が難しい市道が約2キロ続く。基盤整備も残っている。

▼協議会発足

 久賀島に住み、旧五輪教会堂の保存活動に努めた坂谷善衛さん(66)は世界遺産になれば「交流人口が増え活気づく」と期待を抱くが「解決の方向性を市は島民に十分説明し、話し合うべき」とも指摘する。

 市も課題を認識していないわけではない。28日に島民らと「久賀島まちづくり協議会」を発足。教会管理や受け入れ、島民の所得向上への方策などを検討し、まちづくりの計画を作る方針。それを実践し、改善できるかがポイントとなる。

地図
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 福江島からフェリーで約45分の奈留島。約3千人が暮らす。10年前に比べ約1200人減り、こちらも過疎は進んでいる。江上天主堂は奈留港から車で約15分の北西部に立っている。

 江上天主堂をめぐっては、信者との合意形成が大きな課題。信者約300人でつくる奈留小教区評議会は昨春の総会で、江上天主堂を暫定リストから外すよう求める決議をした。

▼信者の意見

 同評議会議長の葛島幸則さん(56)は理由について「今後、教会の維持管理を自分たちだけではやっていけないとの意見が多い」と話す。教会の修理は小教区がボランティアや募金で対応してきたが、世界遺産になれば修復費が増し、困難になるとの見方が強い。

 世界遺産への動きは、多くの信者には突然の話。「意思疎通が不十分なまま進むことに不信感もある」(葛島さん)。8月に市世界遺産登録推進協議会が発足しており、葛島さんは今後の会合の場で「世界遺産の方向に進むのは仕方がないにしても信者の意見を言わなければ」と考えている。

 江上地区の信者も3世帯。教会の換気、清掃を担ってきた。来訪者は増えてきたが、奈留小教区主任司祭の本田靖彦さん(34)は「信者が静かに祈る雰囲気は保たなければ」と話す。

 市は9月定例市議会に、江上天主堂の管理や受け入れ態勢の整備内容を盛り込むプラン作成費用400万円を計上。可決すればすぐに取りかかり、本年度中にまとめる考えだ。教会修復費の負担についても奈留小教区と協議するという。

◎島民が主体の組織づくりを 観光客受け入れなど対応へ 地元識者が提言

 課題が山積する旧五輪教会堂と江上天主堂。地元識者はどうみているのか。市文化的景観保存調査委員会の松本作雄委員長は「行政、島全体、地区がそれぞれすべき点を洗い出し対応しないと成功しない。島全体の過疎化防止の視点も欠かせない」と指摘。「市民対象に理解を深める現地研修もすべき」と話す。

 長崎ウエスレヤン大の加藤久雄非常勤講師は県が目指す2011年の登録が不確定な情勢を踏まえ、残された時間の積極活用を重視。「信者の気持ちを丁寧にくみ取り対話を重ねるべきで、地域や信者、行政のそれぞれ異なる『文法』をつなぎ、相互理解を深めていく必要もある」と指摘する。

 松本委員長ら有志は、教会の維持管理の支援や、巡礼・観光客の受け入れ、ツバキ林の保全などに対応する島民主体の特定非営利活動法人(NPO法人)など組織の設立と、それを行政が支える仕組みづくりを提言している。

 一方、市文化推進室の宮脇泰文室長は「地元住民と協議を密にし、構成資産候補の教会地域以外の市民への啓発活動も進める。本年度、来年度で動きを活発化させたい」と話している。

写真と文 五島支局・久保景吾


2009年9月26日長崎新聞掲載







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