(1)構成文化材の“格”

   「国指定」に多くの障害


 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産登録を目指す取り組みが進む「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」。3月に終了した年間企画「世界遺産への道」の続編として、今回から「課題編」をスタート。年々ハードルが高くなっているといわれる登録に向け、残された課題を探る。初回は構成資産に求められる国の文化財や史跡としての指定に向けた課題をリポートする。

堂崎教会
国の重要文化財への指定が待たれる堂崎教会=五島市
世界遺産への道 課題編・教会群とキリスト教遺産

 2月にあった県議会世界遺産登録推進特別委。県知事公室の嶋田孝弘企画監(現・世界遺産登録推進室長)は「文化庁から『現在の準備状況を踏まえると、2011年の登録は難しいのではないか』と指摘された」と報告した。

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を11年に世界遺産登録する目標を掲げてきた県。大学教授らでつくる県世界遺産学術会議(委員長・林一馬長崎総合科学大教授)を年に数回開き、構成資産の絞り込みや価値を説明する推薦書の作成を進めている。

 2月にあった前回会合までの議論で、構成資産候補に挙がった43件のうち、旧浦上天主堂跡やサント・ドミンゴ教会跡など10件は除外することを決定。現在33件が残っている。

 候補の中でも「大浦天主堂」(長崎市)や「田平天主堂」(平戸市)、「旧五輪教会堂」(五島市)など12件は構成資産になることがほぼ確実な情勢。そのほか21件の大半は国の重要文化財や史跡への指定または重要文化的景観への選定という条件をクリアできなければ構成資産に盛り込めないことなどから最終結論を保留中。今後の手続きを考えると、11年の世界遺産登録は難しい状況だ。

▼保護に関する担保

 構成資産は国の重要文化財や史跡、重要文化的景観でなければならないという国内基準がある。「世界遺産条約履行のための作業指針」は「長期的立法措置、規制措置、制度的措置および伝統的手法により確実な保護管理が担保されていなければならない」と定めており、日本は保護に関する担保として、文化財保護法に基づく指定または選定を要件にしている。

 構成資産候補の中には、国宝の大浦天主堂をはじめ、既に国の重要文化財や史跡に指定されたものもあるが、県の有形文化財や史跡にとどまるものや、何の指定・選定も受けていないものもある。

 未指定の資産候補は、建造物ではド・ロ神父の設計、鉄川与助の施工で1914(大正3)年に建てられた「旧大司教館」(長崎市)、1882(明治15)年ごろ建てられた「旧伝道師学校」(同)、史跡では生月のかくれキリシタンの聖地「中江ノ島」(平戸市)などが該当する。このほか文化的景観(人々の生活や生業、風土によって形成された景観)も外海(長崎市)、黒島(佐世保市)、上五島(新上五島町)、下五島(五島市)、小値賀など8カ所が候補になっているがいずれも未選定だ。

▼文化庁が独自調査

 国の重要文化財や史跡になるためには、県や市町の指定を受けるといった段階は必要なく、未指定の物がいきなり国指定になることは可能。しかし、指定に向けた手続きは県や市町村が申請して、国が指定する形ではなく、文化庁の調査官が独自に調査するため、全国の数ある候補の中から注目してもらうことが必要。たとえ注目してもらったとしても、県や市町は情報提供など側面支援しかできず、思惑通りに進まないもどかしさもある。

 1907年に完成し、五島におけるキリスト教布教の中枢となった「堂崎教会」(五島市)は本県のキリスト教史を語る上で重要との見方が多いが、現状では県の有形文化財にとどまっているため、構成資産に決定していない。県教委学芸文化課によると、同じれんが造りの教会堂として、田平天主堂が既に国の重要文化財に指定されているため、異なるアピール点がなければ国指定になれないという。同課は教会建築を研究する大学教授の報告書を国に提出し、重要文化財指定を働き掛けている。

 また大浦天主堂の上にある「旧伝道師学校」は時代の移り変わりの中で増築を繰り返し、建造当時の姿がほとんど失われ、しかも使われていないために荒れた状態。国の重要文化財指定に向けて改修する場合、国や県の補助金が受けられるが、所有するカトリック長崎大司教区の理解も必要で課題は多い。

▼観点異なる指定も

 史跡では「日本二十六聖人殉教地」や「中江ノ島」が国の指定を受けていない。日野江城跡(南島原市)や原城跡(同)は既に国の史跡になっているが、あくまで中世の戦国大名の城という観点での指定。同課によると、キリスト教という観点で国の史跡に指定された例はなく、文化庁も慎重に調査を進めているという。

 このほか、文化的景観の国選定にも課題は多い。重要文化財や史跡の指定とは手順が異なり、重要文化的景観の選定は市町村の申請を受けて、国が審議する。構成資産候補の8カ所のうち、平戸市は今月中に「平戸・生月の文化的景観」を申請する。今年秋に行われる国の文化審議会で審議される予定だが、県内のほかの市町の進ちょく状況はさまざまで、本年度中の申請は難しいとの見方を示す自治体もある。

 11年度の世界遺産登録を目指す場合、来年2月までに正式な推薦書をユネスコに提出しなければならない。同学術会議が「長崎の教会群−」の価値を定義する議論の中で構成資産候補を絞り込み、現在国の指定または選定になっていない資産を外すことになる可能性はあるが、来年2月までの推薦書提出は難しい状況といえる。

 県世界遺産登録推進室の嶋田室長は、登録の目標期限をあらかじめ定めた上で、国の指定または選定に間に合わない資産は外すという考えを否定し「世界遺産には完全性が求められており、価値を証明するのに必要なものを構成資産から外すことはできない。必要と考える資産について、早急な国指定を目指して働き掛けたい」と話している。

文・村田傑人

構成資産候補一覧表

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の構成資産候補(県内分)

国の文化財の体系



2009年7月25日長崎新聞掲載







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