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  めざせ世界遺産:企画 世界遺産への旅・16
2007年11月24日長崎新聞掲載

宝亀教会


=平戸市宝亀町=

信者の思いの“結晶” 神父眠る墓に花絶えず

写真1
木造かられんが造りへの過渡期の姿をとどめている宝亀教会=平戸市宝亀町
 小春日和に誘われるように、目的地の宝亀教会を目指して平戸島を南へと車を走らせた。山あいを抜け、海岸線に出ると、穏やかな海原の向こうに北九十九島の緑が広がっていた。

ザビエル上陸

 「あの入り江で平戸に出入りする帆船が風待ちしていたそうです。地形的に最適だったんでしょう」。案内してくれた平戸観光ウェルカムガイドの戸村八千代さん(56)が、助手席から左手の川内港を指さした。

 日本の西端に位置し、古くから貿易などでアジアと結ばれていた平戸。一五五〇年にポルトガル船が入港すると、オランダやイギリスなどヨーロッパの国々との貿易拠点として繁栄の歴史を刻む。異国船が順風を待ち、出航に備えたいにしえの光景が目に浮かんだ。

 タバコの種子、パン、ペンキ、ビール、サツマイモ−。海外との交流で多くのものが平戸から日本に入った、と伝えられている。そして本県でのキリスト教布教の歴史も同年、宣教師、フランシスコ・ザビエルの平戸上陸で始まった。

 交易に熱心だった時の平戸領主が布教を許したのは、ポルトガル商人らに影響力があった宣教師との友好関係を保つことで、西洋のさまざまな知識や技術の伝授を受けたり、貿易の利を得ようと考えたからにほかならない。

 ザビエル上陸から二十年後の一五七〇年には平戸のキリシタンは五千人を数えたとされるが、豊臣秀吉による一五八七年の伴天連(宣教師)追放令ごろから禁教政策は厳しさを増し、やがて平戸の信者も殉教、潜伏の時代へと入っていく。一六三五年の大殉教では根獅子などで捕らえられ、処罰された信者は七十二人に上ったという。

建設指揮執る

 通りから山手に入り、車一台がようやく通れるほどの細い道を上りきった高台に宝亀教会(一八九八年完成)はあった。

 建設の指揮を執ったのは、平戸や北松で布教に当たっていたフランス人のマタラ神父(一八五六−一九二一年)。時代は明治となり、キリシタン禁制も解かれた後だったが、迫害が続く信者たちの暮らしはまだまだ貧しかった。周辺道路も整備されておらず、海岸まで船で運ばれてきた砂利や木材など資材を信者たちは背負ったり、担いだりしながら約一キロの道のりを運んだという。

 「この柱はスギ。大きくて重かったので一本を大人八人がかりで運んだらしい。道が悪くて本当に難儀したそうです」。当時を知る住民が生前、口にしていた思い出話を地元信者の藤澤傅(つたえ)さん(80)が聞かせてくれた。ステンドグラスから柔らかな光が差し込む聖堂内。その柱は百年以上がたった今も、信者たちの思いの結晶である教会を支えていた。

 教会から下った所に古びた小さな石仏がある。禁教時代、この地の潜伏キリシタンが仏教徒を装って祈りをささげたと伝えられている仏像。背中に触れると、十字架が彫られた跡らしきものが確かにあった。弾圧の嵐の中、彼らはどんな思いで「夜明け」を待ったのだろう。

 マタラ神父が眠る墓は、オレンジ色の夕日に包まれていた。葬儀ミサが営まれた紐差教会から、墓地まで千二百人の信者が歩いて見送ったという。今も信者の尊敬を集めている神父の墓には、きれいな花が手向けられていた。

文・下釜 智
写真・吉田利一


写真2
マタラ神父が眠る墓地=平戸市木場町
写真3
ステンドグラスからの柔らかな光が差し込む=平戸市宝亀町

 宝亀教会  両側面備えたベランダ特徴
位置図  1873年にキリシタン禁制が解かれた5年後、宝亀地区には民家を利用した家御堂ができ、神父が巡回してくるときに信者たちが集まったという。その後、仮教会を経て、今の建物が完成した。平戸市内に現存する教会の中では最も古い。

 主構造は木造瓦ぶきだが、正面外観はれんが造り。教会建築が木造かられんが造りに移行する過渡期の姿を良好にとどめている。

 両側面にベランダを備えた独特の構造で、県内の教会にはほかに例がない。また、出入り口のような床まで伸びた大きな側面窓も珍しい。内部はアーチ状の曲面天井。その形状から、コウモリ天井とも呼ばれている。建設当初は神父が生活する司祭館がなく、屋根裏部屋を使っていた。

 1987年に襲った台風12号で、屋根などが損壊。補修工事に伴い、翌年2月までの半年間は近くの公民館でミサが営まれた。2003年、県有形文化財に指定された。

 史跡や歴史、文化などを案内する平戸観光ウェルカムガイドの問い合わせは平戸観光案内所(電0950・22・2015)。


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