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めざせ世界遺産:企画 世界遺産への旅・7
2007年7月14日長崎新聞掲載
大浦天主堂(上)
=長崎市南山手町=
「信徒発見」歴史の舞台 信仰、250年受け継がれてきた“奇跡”
川上てるの子孫、森内秀雄さん=長崎市南山手町
幕末の一八六四(元治元)年末に完成した大浦天主堂は、日本に現存する最古の教会建築として知られ、国宝に指定されている。この教会は「信徒発見」と呼ばれる歴史的な出来事の舞台であり、長く続いたキリスト教禁教の時代に終止符を打ち、国民が信仰の自由を認められた、日本近代化の重要な史跡といっていい。
「サンタ・マリアのご像はどこ?」
一八六五(元治二)年三月十七日。長崎浦上村の潜伏キリシタン十数人が大浦天主堂を訪ね、大浦教会主任司祭のベルナール・タデ・プチジャン神父に信仰を打ち明けた。
禁教令下で潜伏していた最後の神父が殉教したのは一六四三年。それ以来、もはや洗礼を授ける神父はおらず、もちろん教会もない。幕府の残酷な迫害に耐えかねて、江戸初期に七十五万人いたといわれた日本のキリスト教徒は絶えた、とも思われていた。
しかし、信仰は親から子へ、子から孫へと、約二百五十年にわたり脈々と受け継がれていた。この驚くべき事実は世界を感動させ、「宗教史上の奇跡」といわれるようになる。
禁教令下で信仰を公にすれば死は免れない。信者たちは大浦天主堂を訪ねたものの、入り口でもじもじしていたらしい。そこから一人離れ、神父の肩をたたき、「私の胸、あなたの胸と同じ」と最初に勇気ある告白をしたのは、五十三歳の女性杉本ゆりだったといわれる。
ゆりの妹で三十九歳の川上(こうかみ)てるも姉とともに信仰を表明した。てるから数えて四代目の子孫の森内秀雄さん(87)は、今も当時の浦上村に当たる長崎市大橋町に健在だ。
妻ツギ子さん(83)も、三人の息子と孫たちもみな敬けんなカトリック信徒。秀雄さんは「誰から見ても立派な信者と言われたい」と先祖から受け継いだ信仰に誇りを持っている。
梅雨の晴れ間の蒸し暑い日の午後。秀雄さん夫妻とともに大浦天主堂を訪れた。門から聖堂に続く石段を、高齢の秀雄さんが笑みをたたえたまま、ゆっくりと上る。
堂内でカメラマンが撮影を頼むと、秀雄さんは柔和な顔でうなずいて腰の前で手を組み、祭壇に向かって祈り始めた。ステンドグラスに午後の強い陽光が差し込み、秀雄さんを厳かに照らした。
なぜ激しい迫害に屈することなく、先祖は信仰を守り通したのだろうか。そう問うと秀雄さんは微笑を浮かべ、「自分やったらやめたかもしれん」と正直に言ってから、こう答えた。
「なんば悪かことか。よかことしか教えられとらんとに。自分たちは正しか、と胸に思うとったんでしょう」。穏やかな笑みを絶やさない秀雄さんの中に、何か大きな力が宿っているような気がした。
正面右手の祭壇には、信徒発見から百四十二年を経た今も、当時の信者が真っ先に探し求めた聖母像が安置され、慈愛に満ちたまなざしを投げ掛けている。
「自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」(新約聖書・マタイ五−四十四)
文・松尾 潤
写真・吉田利一
1865年の「信徒発見」をもたらしたマリア像=長崎市南山手町
7大浦天主堂は日本の初期洋風建築を代表するもので、日本教会建築の最高峰との評価もある=長崎市南山手町
大浦天主堂
二十六聖人処刑された西坂の丘向け建つ
日仏修好通商条約に基づき、横浜天主堂(1862年完成)に次いで建てられた教会。設計はフューレ神父ら。施工は天草出身の大工、小山秀。プチジャン神父(のち司教)の指揮で1863年着工し、翌年12月29日に完成した。
聖堂はゴチック建築様式。79年に外壁をれんが造りとし、当初の約2倍の広さに拡張する大増改築を実施した。1933年1月、国宝指定。45年8月9日の原爆で中央大祭壇やステンドグラスが大破したが、5年間に及ぶ修理を経て、53年3月、国宝に再指定された。
正式名称は日本二十六聖殉教者天主堂。聖堂は二十六聖人が処刑された西坂の丘に向けて建てられた。建設中、長崎の住民は珍しがって「フランス寺」と呼び、連日見物に押し寄せた。内部は現在もほぼ当時のままで、日本の初期洋風建築を知る貴重な建物といえる。
「信徒発見のサンタマリア像」のほかにも、信徒発見を記念して1866年にフランスから贈られたブロンズの「日本之聖母像」が聖堂入り口にある。聖堂内にはプチジャン司教の墓碑もある。
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