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めざせ世界遺産:企画 世界遺産への旅・6
2007年6月23日長崎新聞掲載
田平天主堂
=平戸市田平町=
心血注いだ信仰の結晶 「光と影」歴史刻む地に建つ
鉄川与助の代表作といわれる田平天主堂。八角形のドームを頂く正面中央の鐘塔などが特徴=平戸市田平町
「カタン、タタン」と軽快なリズムを奏で、松浦鉄道(MR)の車両は平戸瀬戸を目指した。車窓の向こうのどこか懐かしい田園風景が、旅人の郷愁を誘う。
一九一七年、信徒らの献身的な力仕事で完成(献堂式は一八年)した田平天主堂は、瀬戸を望む丘の上に建つ。海岸からの高さは約百メートル。当時、陸路が発達していなかったため、れんがや柱の台座に使う岩などは海岸まで船で運び込み、一人がようやく通れるほどの細い急坂を担いで登ったという。敷地の造成中には土塊が崩れ落ち、二人が命を落としている。まさに、心血が注がれた信仰の結晶なのだ。
わが家と同じ
ステンドグラスから漏れる光が優しく照らす堂内で、天主堂の献堂翌年に生まれた山内忠七さん(87)が幼少時代の思い出話を聞かせてくれた。落成はしたものの、資金難から二階にステンドグラスが飾られたのは十年後。それまでは木の板を打ち付けて過ごした。山内さん自身も子どものころ、天主堂の敷地整備のセメントに使う砂を、同世代の友人らと海岸から運び上げた経験がある。「(みんなが)苦労して建てた教会。自分の家と同じです」
資材を運んだという坂の入り口に行ってみた。道と呼ぶには程遠く、雑草も生い茂って足を踏み入れることはできない。マムシも出るという。山内さんの言葉をかみしめた。
貧しさの中で
天主堂のある丘から平戸島は目の前だ。十六世紀半ば以降、海外貿易の拠点が長崎の出島に移されるまで、平戸に入るポルトガルやオランダなどの商船を通じ、西洋文化にいち早く触れてきた田平。徳川幕府によるキリシタン弾圧の暴風雨にさらされ、外国人宣教師が処刑された殉教の地でもある。ここもまた、時代の光と影の中で、その歴史を刻んできたのだ。
約二百六十年に及ぶ禁教令が解かれた一八七三年ごろ、田平には約十戸の信徒がいた、と伝えられている。信仰が自由になったとはいえ、「キリシタンであると分かると周囲の態度は一変した。ある者は田の水をせきとめられ、生活は困難をきわめた」(田平カトリック教会刊『永遠の潮騒』)。
ただ、田平は未墾地が多く、開拓には有望だった。一八八六年に黒島(佐世保市)のエ・ラゲ神父、さらに出津(長崎市)のド・ロ神父がそれぞれ田平の山野を買い求め、信徒を移住させたことが大きな転機となる。酸性が強い開拓地を中和する石灰も買えず、肥料として海岸の藻を畑にまくような暮らしだったが、貧しい中でも先祖たちが命を懸けた信仰を守り続けた。
米機の標的に
時代は下って太平洋戦争末期。兵隊宿舎として使うため、天主堂は後ろ半分を旧日本軍に接収されている。そのためか、一九四五年七月には米軍機の標的になり、機銃掃射でステンドグラスが割れた。今もその時の弾痕がれんが塀に残る。
外地に出征した山内さんは言う。「軍隊生活でも朝晩、祈りの言葉をそっと心の中で唱えた。戦地から古里に戻り、以前と変わらない天主堂の姿を見た時はうれしかった」。戦争で家族を失うなど傷付いた信徒らにとって、天主堂はどれだけ心の支えになったことだろう。
外は夕暮れが迫っていた。瀬戸から吹き上げる風が時折、草をサッとなでる。やがて空はオレンジ色に染まり始め、天主堂からアンジェラスの鐘が静かに鳴り響いた。
文・下釜 智
写真・吉田利一
アンジェラスの鐘が鳴り響き、天主堂一帯は夕暮れに包まれる
平戸城を望む焼罪史跡公園の記念碑。この近くで処刑された
天主堂敷地内に残る貝殻焼き場跡
田平天主堂
鉄川与助の代表作
中田藤吉神父と信徒らの衣食を削る努力の中で完成した。県内を中心に九州北部に数多くの教会堂を手掛けた棟梁(とうりょう)、鉄川与助の代表作ともいわれる。
れんが造りの教会堂としては鉄川の最後の建物。外観も内部も全体的に均整が取れ、意匠的にも優れている。八角形のドームを頂く正面中央の鐘塔が特徴的。外壁は色が違うれんががしま模様をつくり、リズムと変化を生んでいる。
敷地内には貝殻焼き場跡が残る。建設費を抑えるために貝殻を焼き、その灰を粘土に混ぜてれんがの目詰めに使ったという。1597年、長崎の西坂の丘で殉教した26聖人にささげられた教会でもある。2003年、国重要文化財に指定された。
一方、平戸瀬戸を望む焼罪(やいざ)史跡公園には、1622年、田平で殉教した宣教師、カミロ・コンスタンツォの遺徳をしのぶ記念碑が建つ。毎年9月には田平の三つの教会の信徒が集まり、殉教記念ミサが行われている。信徒の嘉松茂幸さん(67)は「地元では巡礼の地になっている」と言う。
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