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めざせ世界遺産:企画 世界遺産への旅・5
2007年6月9日長崎新聞掲載
黒島天主堂
=佐世保市黒島町=
信仰貫き通した島 一つ一つ、信徒自信がれんが積む
国重要文化財で、島のシンボルでもある黒島天主堂=佐世保市黒島町
汽笛を二度鳴らして、フェリーは船着き場へ接岸した。五月の陽光の下、まばゆいもえぎ色に彩られた島の道を歩く。潮騒に乗った風が新緑を揺らし、汗ばんだ体を駆け抜けていった。
佐世保市の黒島。一周はわずかに約十二キロしかない。約七百人の島民の八割がカトリック信徒という。
迫害や食料難から逃れ、今の長崎市外海地区などから潜伏キリシタンが移ってきたのは禁教令下の一八〇〇年ごろ。先住の仏教徒集落を避け、村外れの荒れ地で開墾のくわを振った。安住を求めた「旅」だったが、苦難と試練は続く。平戸藩の黒島でも絵踏みが強要され、表向きは島内唯一の寺院、興禅寺の檀家(だんか)となって仏教徒を装うしかなかった。
幕末の一八六四年、長崎の外国人居留地に大浦天主堂が建てられると、出口吉太夫、大吉親子ら黒島の二十人が命懸けの行動に出る。大浦へ渡り、自らの信仰を神父に告白したのだ。
七二年にはポアリエ神父がひそかに初来島し、かくまわれた出口家でミサを執り行っている。禁教令が解かれる前年のことだ。神父は潜伏キリシタンらに秘跡(キリスト教の儀式)を授け、黒島のカトリックは復活を遂げることになる。
目指した黒島天主堂は、船着き場から続く坂道を登り切った島の中央部にあった。一九〇二年完成の重厚なれんが造り。キリシタン禁制が撤廃され、信教の自由を手にした信徒たちは献金だけでなく、骨身を惜しまず労働奉仕し、れんがを一つ一つ積み上げていったという。まるで失った時間を取り戻すかのように。
単層の教会が主流だった当時、高い建築技術を要する三層構造は画期的だった。小さな島には不似合いにも見える荘厳な姿が信仰心の厚さを物語る。「八割から九割の作業に信徒がかかわったそうです。だから、今も自分たちの教会だという意識が強い」。島外から二年前に着任した竹谷誠神父(32)はここを「信仰の島」と表現した。
弾圧の時代、黒島の人々はなぜ信仰を守ることができたのか。黒島史跡保存会メンバーで、祖先が禁教令時代に移り住んだという山内一成さん(52)が興味深い話を教えてくれた。「仏教徒を装った潜伏キリシタンらは興禅寺の本堂の柱の陰に木彫りのマリア像を隠し、(仏像を拝むふりをして)祈りをささげていたらしい」。幕府や藩の目が届きにくい小島だったことに加え、こうした信仰の知恵、そして何よりも強い心が彼らを支えたのだろう。島の男性(85)は「働いていたころは(朝夕の)アンジェラスの鐘が鳴ると、畑にいても天主堂に向かって祈りをささげた。足腰が弱った今でも日曜のミサは欠かさない」と話した。
出口家の家屋跡には今、「信仰復活之地」と刻まれた石碑が立つ。二度目にそこを訪れたとき、校外学習で立ち寄った黒島小の児童らと一緒になった。一人の女の子が言った。「お母さんに連れてきてもらったことがあるよ」。信徒にとって黒島天主堂が心のよりどころであるように、ここも大切な場所なのだ。
近くからは海が見える。苦難の潜伏キリシタンに思いをはせながら、出口親子らが決死の覚悟で渡った海原をしばらく見詰めた。
穏やかな海はどこまでも青く、澄んだ空と水平線で溶け合っていた。
文・下釜 智
写真・吉田利一
安息を願い祈りをささげる=黒島天主堂
海を見下ろす高台に立つ「信仰復活之地」碑
絵踏みが行われた役所跡(左側)。今は石垣だけが残る
黒島天主堂
三層構造は時代に先行
黒島に着任したフランス人のマルマン神父が設計し、1900年に着工。長崎などから教会建築の経験がある大工を招き、信徒らの手で2年かけて造り上げた。1878年に完成した島で最初の教会(1900年解体)が木造だったのに対し、三層構造の荘厳なれんが造り。当時としては時代に先行した建物で、後の教会建築に多大な影響を与えたとされる。
11−12世紀の西ヨーロッパで流行したロマネスク様式の外観。基礎や堂内の柱の台座には島内で切り出した御影石が、祭壇部分には有田焼のタイルが敷かれ、マルマン神父手作りの説教壇も残っている。外壁には平戸などから仕入れた約40万個のれんがを使い、一部は天主堂裏手の赤土を掘り出して焼いたという。
マルマン神父が母国から取り寄せた創建時からの鐘は戦時中、空襲警報を知らせる鐘として使われたため、軍への供出を免れた。建物の完成度が高く、その歴史的価値から1998年、国の重要文化財に指定された。
島民有志でつくる黒島史跡保存会(鶴崎時雄代表)が、車で黒島天主堂など島内を観光案内(有料)してくれる。問い合わせは同保存会事務局の黒島地区公民館(電0956・56・2765)。
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