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めざせ世界遺産:企画 世界遺産への旅・3
2007年5月12日長崎新聞掲載
日野江城跡
=南島原市北有馬町=
繁栄と弾圧を体現 まちづくり、認識高揚へ取り組み
日野江城本丸跡。この付近にかつて物見櫓(やぐら)や有馬氏の居館があったのではないかとみられる=南島原市北有馬町
膝(ひざ)まで伸びた雑草をかき分けながら、小高い丘へと歩を進める。急な階段を上りきると、一面草野原となった本丸跡にたどり着いた。生い茂った草木のすき間から、わずかに有明海と田園の風景がのぞく。
国指定史跡・日野江城跡。普段は人がほとんど足を踏み入れず、かつての城郭の面影を探すのは難しい。だが、四百年前、栄華を極めたキリシタン文化の記憶がこの地には眠っている。
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」に挙げられる二十の資産リスト。教会建築物が大半を占める中で、“毛色”が違う城跡(日野江城跡と原城跡)が入ったのはその「歴史的意義と精神性」(県)からだ。二つの城跡は長崎のキリスト教の繁栄と弾圧の表裏の歴史を体現している。
光と影の歴史
「光」の歴史が詰まった日野江城跡。文献によれば、島原半島にキリスト教が伝わったのが一五六三年。領主有馬氏が洗礼を受けて布教が進み、家来や農民のほとんどが信者となった。その数は七万人以上とされる。
特にキリシタン大名、有馬晴信の時代には城下にセミナリヨが設立され、ルネサンス期の最先端の学問教育が行われたほか、海外との交易でにぎわった。国内最大級の教会も建造された。十六世紀後半から十七世紀初頭は島原半島のキリシタン文化の「黄金期」であり、日野江城はまさしくその象徴だった。
一方、繁栄の陰には仏教徒への弾圧もあった。当時、宣教師主導で領内の寺社・仏閣を徹底して破壊。日野江城の階段部分に、仏教系の石塔百点以上を敷石として利用していたことが判明している。県文化振興課の大石一久課長補佐は「仏教勢力への見せしめだった」と推測する。
未知の可能性
翻って現代。有馬氏の衰退やキリシタン弾圧の流れの中で城は取り壊され、往時の繁栄を知る手掛かりは少ない。それでも、地元ではキリシタン文化をまちづくりに生かそうという取り組みが続いている。
四百年前にセミナリヨで使用された楽譜を使って、地元の子どもたちが聖歌をラテン語で再現したり、南蛮料理を復元。「有馬歴史研究会」事務局の末永透さん(44)は「島原半島は国内でも有数の西洋文化が花開いた地域。しかし、地元でもまだ認識は低い。誇りある有馬の歴史をもっと発信したい」と話す。
しかし、行政でさえその「認識」が浅かったことを露呈する事件が昨年、発覚した。当時の北有馬町が城跡に桜を植樹しようと、文化財保護法に違反して遺構の一部を破壊。文化庁は当時の町長らを刑事告発し、捜査が続いている。
この事件で発掘調査は中断。「日野江城跡の調査はまだ途上。これからの調査で、多くの貴重な発見が得られるはず」と南島原市教委文化課の松本慎二副参事は未知の可能性を口にする。
吹き抜ける風が草木を揺らす本丸跡。城跡に埋もれたまだ見ぬキリシタン文化の記憶が、再び「光」を当てられるのを待ち望んでいる−そんな思いが胸をかすめた。
文・北川 亮
写真・吉田利一
国指定史跡の吉利支丹墓碑。かまぼこ形の半円柱蓋石(ふたいし)で、ローマ字の碑文が刻まれている=南島原市西有家町
外来系の技術を駆使したり、仏教の石塔を利用して構築された石垣、石段遺構。現在は保存のため埋め戻されている(南島原市提供)
1998年の調査で出土した金箔(きんぱく)瓦。豊臣秀吉と有馬氏の強いつながりをうかがわせる遺物
日野江城跡
例のない外来系技法石垣
島原半島を治めた有馬氏が、南北朝時代に築城。1200年ごろから1614年まで同氏の居城だった。本丸や二の丸、三の丸などで構成し、面積11・2ヘクタール。キリシタン大名、有馬晴信の時代には西洋文化が広がり、1580年、城下には安土とともに国内で初めてセミナリヨ(イエズス会の中等教育機関)が設立された。
ローマに渡った天正遣欧少年使節の4人は有馬のセミナリヨの1期生。当時、修道士を目指して国内外から集まった100人以上の少年たちがラテン語や西洋音楽、絵画などを学んだ。4少年が帰国した際には日野江城で盛大に報告会を開催したとされる。
1982年、国指定史跡。95年から発掘調査が始まり、豊臣秀吉政権の中でも重要な位置を占める城郭にだけ使用される「金箔(きんぱく)瓦」が出土。仏教の五輪塔などを敷き詰めた階段や、切り石を組み合わせた石垣遺構も姿を現した。南島原市教委によれば、この石垣遺構は外来系技法の可能性が高く、「日本の城郭で他に例がない」貴重な発見という。
吉利支丹墓碑
ローマ字刻印最古
南島原市西有家町の共同墓地内にある国指定史跡。長さ約120センチ、幅約50センチ。ローマ字の碑文が刻まれたキリシタン墓碑としては日本最古。1929年に出土。かまぼこ形の石製で、背面に花十字紋が施されている。
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