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長崎原爆の日  問われる被爆国日本の姿勢

 米国が原爆を投下して長崎が地獄と化したあの日から、きょうで65年目。一瞬にして7万人余りの命を奪い、辛うじて生き延びた人々にもまた、放射線障害という終わりなき苦痛を与え、時間をかけて無数の命を奪い尽くしていった悪魔の兵器、原爆。その傷あとは今も癒えることがない。

 この65年間、原爆の地獄で焼かれる子どもたちの悲鳴が聞こえなかった日があろうか。熱線と爆風と放射線で傷つき、もだえ苦しむ犠牲者のうめき声が聞こえなかった日があろうか。病気と貧困と差別にさいなまれながら、ひっそりと死んでいくしかなかった無数の被爆者の無念を思わなかった日があろうか。長崎は今も、激しい怒りと深い悲しみに包まれている。

 「このような非人道的で、いずれ人類を破滅に導くであろう核兵器は廃絶するしかない」。長崎はひたすらそう訴えてきた。その願いは、いまだかなえられていない。

 だが、われわれは歩みを止めるわけにはいかない。いかなる困難をも乗りこえて核兵器廃絶を実現しなければ、幾多の原爆犠牲者の無念を晴らすことはできないからだ。放置すれば、いずれ広島、長崎と同じ悲劇に見舞われる人類の未来を救うことはできないからだ。被爆65周年のきょうは長崎にとって、核廃絶の意志を一層、強固にして前進を誓う、決意の日である。

 困難な中にも希望は見えてきた。「核兵器のない世界」をうたうオバマ米大統領の登場で、核廃絶の機運が世界的に高まったからだ。世界最大の核大国の指導者が核廃絶へ向けて動き始めた意義は大きい。日本政府は今こそ、米国に協調して積極的に行動すべきだ。

 だが、楽観はできない。オバマ大統領のいう「核兵器のない世界」は、核テロや核拡散から米国を防衛する観点から発想されたものであり、被爆地長崎が願う核廃絶・恒久平和確立とは、やや隔たりがある。5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも、核兵器に固執する核保有国の姿勢は、米国も含めて変わりない現実を見せつけられた。核廃絶の道はなお険しい。

 そこで痛感させられたのは、オバマ大統領がつくり出した核廃絶機運を、本物の潮流に育てていくためには、何と言っても広島、長崎の訴え、被爆国日本の政府の真剣な働き掛けが不可欠ということだ。「オバマ頼み」は通用しない。

 それほど日本政府の役割が重視されているというのに、菅直人内閣の核政策は危うい。菅首相は6日、広島市で「非核三原則を堅持する」と明言した。だが、首相の諮問機関は、非核三原則を二原則に縮める提言を用意しているという。

 政権交代後、核密約の解明が進み、非核三原則空洞化の実態が明るみに出たことには意義がある。だが、その行き着く先が三原則の二原則化であるならば、密約解明は空洞化の現実を国民に追認させるための地ならしにすぎなかったことになる。これほど国民を愚弄(ぐろう)した話はない。

 首相は、NPT未加盟のインドと原子力協定を結ぶ方針も決めた。だが、NPTは未加盟国への核協力を禁じている。にもかかわらず、被爆国日本が経済的利益に目がくらんで対インド協力に踏み切れば、核拡散に歯止めがなくなり、核問題でのモラルハザードが一気に進む。それは、核による人類滅亡の引き金を、ほかならぬ被爆国日本の政府が引くことにつながりかねない愚行である。首相はその点をどう考えるのか。

 被爆65周年のきょうは、世界の核情勢が大きく動き始めたこのときに、何よりも被爆国日本の政府の足元を見詰め、立て直す日ともなるべきだ。(高橋信雄)


(2010年8月9日長崎新聞掲載)


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