
菅直人首相は6日、広島市平和記念式典でのあいさつで、「原爆症認定制度の見直しについて検討を進める」と明言した。認定制度の早期改善を求める被爆者の声にこたえようとするもので、その前向きの姿勢は評価したい。
ただ、首相は見直しの具体的内容には言及しなかった。これは遺憾だ。現行制度のどこに問題があるかは、被爆者団体が繰り返してきた要請や、現行制度を厳しく批判した多くの司法判断によって、既に明白である。求められるのは首相の政治決断だ。2008年に一定の改善が図られたとはいえ、まだまだ非科学的で不合理な認定基準を、科学的で合理的な基準に改めるという、当たり前の決断だ。できないはずはない。
9日の長崎市平和祈念式典では、ぜひ被爆者の立場に立ち、具体的な見直し方針と、それを迅速に実行する決意を示してほしい。
国は、原爆症認定を求める被爆者の集団訴訟で連敗を続けた結果を受けて、08年4月に原爆症認定基準を大幅に緩和。がんや白血病など5疾病を「積極認定」する新基準を採用した。だが、その後も各地の裁判所で、5疾病以外の疾病でも原爆症と認定する判決が続出。今年7月には長崎地裁でも、新たに2疾病を認定する判決が出された。
08年の新基準が、なお原爆症の実態から懸け離れたものであり、旧基準の欠陥を部分的に取り繕ったにすぎないものであったことが、一連の判決で暴露されたわけである。不合理を改善するには、原爆症の複雑な実態を考慮し、基準をさらに大幅に緩和するしかない。首相の理解を求めたい。
認定審査のスピードアップも緊急の課題だ。現在、滞留している認定申請が約6600件もある。審査態勢の拡充を急ぐべきだ。
長崎では、いわゆる「被爆体験者」の救済も急務だ。原爆の放射線、熱線、爆風などの影響の強弱は、基本的に爆心からの距離で定まるのは自明の理だ。にもかかわらず長崎では、距離ではなく、被爆当時の長崎市という行政区域内にいたかどうかで、被爆者に認定されるかどうかが決められている。同じように爆心地から半径12キロ以内にいても、旧行政区域外にいた人は被爆者と認定されず、「被爆体験者」などという意味不明の行政用語で呼ばれている。これほど非科学的で不合理な行政があろうか。そんな被爆者行政を国は延々と続けているのである。
やむなく、「被爆体験者」は被爆者認定を求める訴えを長崎地裁に起こしている。原告は約400人に上るが、皆、高齢だ。しかも本来、無用のはずの裁判を国は受けて立ち、長引かせている。理不尽極まりない。国は直ちに裁判を終結させ、12キロ以内の被爆者は同じように認定すべきだ。
菅首相が、厚労省官僚による、かくも非科学的で不合理な行政を看過することはないものと信じたい。長崎ではぜひ、いかなる不合理も是正すると明言してほしい。(高橋信雄)
(2010年8月8日長崎新聞掲載)
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