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 長崎五輪招致断念  何事も市民、議会と一体で

 田上富久長崎市長が今月、2020年夏季五輪の長崎招致を断念する方針を正式に表明した。

 田上市長は昨年10月、秋葉忠利広島市長と共に突然、広島、長崎両市の五輪共同開催構想を発表。その実現を目指して精力的に行動してきた。だが、国際オリンピック委員会(IOC)と日本オリンピック委員会(JOC)が、「1国1都市開催を定めた五輪憲章に反する複数都市立候補は認めない」と明確に伝えたことから、市長も断念を表明せざるを得ない状況に追い込まれた。これで、全国の注目を集めた「被爆地五輪」共同開催構想は、約3カ月で幕引きとなった。

 市民の賛否は極端に分かれた。賛成の人々は「核廃絶をアピールする素晴らしいアイデア」「長崎で五輪開催が実現すれば、地域経済が活性化する」と熱烈に歓迎した。反対の人々は「商業主義に毒され、国威発揚の場と化した五輪と、被爆地の平和の願いは相いれない。もっと地道な取り組みに力を入れるべき」「長崎には五輪競技を開催できる施設もなければ、財政力もない。実現不可能な夢を唱えるのは無責任」と厳しく批判した。

 市長の行動に対する評価は、これから長い時間をかけて定まっていくだろう。

 ただ、「核のない世界」をうたうオバマ米大統領のノーベル平和賞受賞が決まったタイミングを逃さず、核廃絶の国際世論を一気に盛り上げようと機敏に行動した田上市長の積極性、それ自体は評価したい。斬新な発想で大胆に行動しなければ世界は動かせない、と思う気持ちも理解できる。

 だが、そうした前向きの要素を十分に斟酌(しんしゃく)した上でなお、今回の行動には重大な問題があったと、あえて直言しなければならないだろう。それは、自治体首長としての行動ルールが守られていたかという問題だ。

 田上市長はこれほど重大な計画を、市議会にも知事にも相談せずに突然、広島で発表した。市民、県民の総力を結集しなければ招致活動さえおぼつかない計画を独断で打ち上げ、突き進んだ。寄せられる疑問や指摘に対しては具体的議論を避け、ひたすら、自分が思い描く五輪の理想像を語ることで答えに代えようとした。こうなると、もはや自治体行政の範疇(はんちゅう)を逸脱していると言わざるを得ない。

 しかも肝心の長崎の被爆者、平和団体の多くが、五輪構想に猛反対していた。当然、議論を深めて理解を得る努力をすべきだったが、ここでも市長は五輪の夢を対置するにとどまった。

 市長は市民の代弁者の役割を負う。従って、市長が公に語る夢は、大方の市民の夢でなければならない。賛否の割れる場合は、まずは市民の合意形成に努力する義務がある。その努力が十分になされていたとは思えない。五輪を議論する以前の問題として、市長の夢の語り方と行動スタイルに問題があったといえるのではないか。今後は何事も市民、議会と一体を心掛け行動してほしい。(高橋信雄)


(2010年1月31日長崎新聞掲載)


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