月琴の名手
 (2010年6月18日付)
 明清楽の継承者にして、月琴の名手で知られた中村キラさん(1913〜2004)を取材したことがある。20年ぐらい前。一度記事を出したあとも、何度かお宅にお邪魔した▲取材目的があったわけではなく、小さなおばあさんが語る戦前の逸話が面白かったのだ。鼻っ柱が強かった若かりしころ、出演した料亭の座敷で酒をつげと言われても「自分は奏者だからつがない」と断ったと得意げだった。当時の長崎の有力者の名前が次々に出てきた▲訪ねれば必ず月琴を弾いて、歌ってくれた。かの中村キラである。思えばぜいたくな話だ。月琴とはやさしい音色の楽器だなと素人なりに感じた記憶がある▲佐賀大講師の中尾友香梨さんの近著「江戸文人と明清楽」(汲古書院)によれば、明清楽は明楽と清楽と合わせた呼称で、まず長崎に伝わり、ハイカラな趣味として全国に広がった。明楽はクラシック、続く清楽は軽音楽といった受け止められ方だったらしい▲その代表的な楽器である月琴は、独奏も可能で京の都でも流行。坂本龍馬の妻お龍もたしなんだ。大河ドラマ「龍馬伝」は、いよいよお龍が登場。月琴の出番も増えるだろう▲明清楽は日清戦争で両国間が険悪になって以降衰退。洋楽の流入も、結果として月琴のハイカラ度を下げた。「大河ドラマを機に、また長崎から明清楽が見直されれば素晴らしいですよね」と中尾さん。(玲)


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