私の中の毒物 カネミ油症発覚から41年
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PCB廃棄物
 莫大な処理費用
 環境汚染地球規模で進む


 カネミ油症患者が摂取した汚染油に混じっていたポリ塩化ビフェニール(PCB)は、その有用性から国内外で工業生産された化合物。人体に入ると神経系、代謝系などに働き、恒常性をかく乱する。分解しにくく処理は困難で、京都府宇治市の医学博士、藤原邦達(82)は「科学は『もろ刃の剣』を生み出した」と皮肉る。

 藤原は、五島市の久賀島出身。京都市衛生研究所の研究員として勤務し、1968年の油症事件後、71年までに宇治川、琵琶湖の淡水魚のPCB汚染を確認。工場のPCB垂れ流しなど、汚染源の特定につながった。

 PCBの国内総使用量は約5万4千トン。72年に国内生産は中止され、製造会社カネカはPCB廃液5500トンを処理した。しかし、それまでにPCBを使用した多種多様な製品は廃棄物となり、環境を汚染していた。自然界では分解しにくく、大気循環や海流によって地球規模で移動。海の哺乳(ほにゅう)動物などの高濃度蓄積も確認されている。「食物連鎖の最上位にいる人間が一番汚染され集約される」と藤原は警鐘を鳴らす。


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次々に運び込まれるPCB廃棄物の処理に当たる作業員=北九州市若松区、JESCO北九州事業所
 PCB廃棄物の処理技術の開発が進まなかったため、各事業者は廃棄物をずっと個別保管してきた。紛失、漏えいもあり、環境省の資料では、PCB含有量が多い高圧トランス、コンデンサーは、約39万台のうち所在確認台数は2001年で約27万台にとどまる。県廃棄物対策課によると、PCB廃棄物の県内保管は560事業場。近年、PCB含有油のドラム缶の野外放置や安定器の不適正処理なども発覚している。

 処理技術がようやく確立し01年、PCB廃棄物特別措置法が施行された。政府全額出資の特殊会社「日本環境安全事業」(JESCO)が04年度に設立され、同年〜09年度の事業計画で約382億〜580億円の所要資金を毎年計上。全国5カ所に処理施設を整備し、事業に着手している。

 九州、中国、四国のPCB廃棄物を受け入れる北九州市のJESCO北九州事業所。持ち込まれた廃棄物は厳重に管理され、作業員は防護服を着て処理を進めている。JESCOは16年までに、全国のPCB廃棄物を処理する計画という。

 藤原は疑問を投げ掛ける。「油症患者は放置され、企業活動で生み出されたPCBの処理には莫大(ばくだい)な費用がつぎ込まれている。この事態を招いたのは誰なのか。国は何をすべきか。私たちは再度、考えてみる必要がある」(文中敬称略)


2009年12月12日長崎新聞掲載


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