私の中の毒物 カネミ油症発覚から41年
(5)
次世代の不安
 続く底無しの苦悩
 影響解明し救済態勢整備を


 九州大大学院環境分子疫学研究室准教授、長山淳哉(61)らは1970年代、カネミ倉庫の汚染油に油症の主因、ダイオキシン類のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)が混じっていることを確認し、油症患者の体にもPCDFがあることを初めて証明した。2007年の共同研究では、油症認定患者の母親から生まれた子どもと健常な母親から生まれた健常児それぞれの臍帯(さいたい、へその緒)を使ってダイオキシン類を濃度測定。結果、患者の子どもの臍帯は高濃度だった。

 カネミ倉庫の食用油に混入したカネカ製ポリ塩化ビフェニール(PCB)が熱変化して生成されたダイオキシン類。長山は「強い毒性がある。発がん性、内分泌かく乱作用、次世代の生命の健全性に影響する可能性もある」と指摘する。

 油症の健康被害は多岐にわたるが、次世代被害の懸念は、最もデリケートな問題だ。41年前に汚染油を摂取した世代は、子や孫を油症にかかわらせたくないし、影響も認めたくない。油症を子どもに秘匿している親も少なくない。


写真
自分の少女時代の写真をバックに、わが子の健康不安などを語る下田さん=諫早市、長崎ウエスレヤン大
 11月30日、諫早市の長崎ウエスレヤン大。内村公義教授の講義に招かれた同市の油症患者、下田順子(48)は、自身の少女時代のモノクロ写真をスクリーンに示し、学生約80人が見詰めた。「この日も汚染油の朝食を食べたはず。お昼の母のお弁当のソーセージいためや卵焼きも」

 五島での少女時代から進学、都会での就職、結婚、出産、子育てとすべてにかぶさってきた油症。異常出血、重いヘルメットをかぶったような頭痛、強烈なだるさ、大量の鼻血と目やに、ぶよぶよの吹き出物が放つ悪臭−。PCB、PCDF複合暴露による「恐ろしい体験」を語り続けた。

 講義の前、下田はこう考えていた。「次世代被害はあいまいにされてきたが、ないとは言えない。影響があるなら逃げずに明らかにし、次世代を医療面などで救済する態勢を親の私たちがつくってあげなければ」

 下田は、油症の影がわが子にも付きまとっていることを、学生にあえて話した。本当の化学物質の怖さを伝えたかったからだ。

 「疑問に思う症状が私の子どもにもあります。20歳の娘はこう言いました。『お母さん、私は分かる。自分に油症の影響があることを。でもお母さんを恨まない。命に代えて生んでくれたから』と」。PCB関連化合物がもたらした底無しの苦悩に、下田は言葉を詰まらせ、学生は涙をぬぐった。(文中敬称略)


2009年12月11日長崎新聞掲載


TOP